むくりと起き上がって、ぼんやりとする意識を振り払うように京は緩く頭を振った。サラサラと髪が揺れる。

 それを鬱陶しそうにかきあげて、彼は部屋を出て一階のリビングへ降りていった。

 リビングには誰もいなかった。テーブルの上に美代の字で置き手紙が置いてある。

『おはよ〜京くん。起きたなら冷蔵庫にお昼の炒飯があるから、それ食べてね!お母さんは友達とお買い物に行ってきます♪あ、虎徹くんは埼玉に帰ったから安心してね』

 と。

 それに一つうなずいて、京は冷蔵庫を開けて炒飯を取り出し、電子レンジの中に入れる。温まるのを待ちながら、彼はぼーっと考えた。

(…これからどうすっか。ダチもいなくなったし、部活も当然入る気にはなれねぇ。放課後は暇になった。バイトでもするか?いや、いっそこの憂さ晴らしにまた喧嘩三昧もいいかもしんねぇなぁ)

 ふふふと妙に楽しい気分になって笑い声を漏らす。滅多に使わない表情筋が軋む。

 ピーピーと、電子レンジから無機質な機械音が鳴った。蓋を開けて、温まった炒飯を取り出して、いつも食事をするテーブルの上に置いて食べ始める。

「…美味い」

 つぶやいて、京はその後も黙々と炒飯を食べ進めていった。



 お昼休み。購買で買ったパンを食べながら、どことなく今朝から不機嫌な様子の杉浦を、鈴木がじとりと見つめていた。

 その視線に、彼は大きなため息をつく。

「なんだよ、言いたいことがあんなら言えよ」

「お前なんでそんな今日不機嫌なの?伊吹がいなくて寂しいとか?」

 半分当たっていて、当たっていない。

 それに微妙な顔をして、もう一度杉浦はため息をつく。

「…昨日帰りに、いろいろあって伊吹に友達辞める宣言みたいなのされて」

「は」

 しょんぼりと話し始める友人に、彼はぽろりとパンクズを口から落とす。構わずに杉浦は続けた。

「そんで、今日ちゃんと話つけよーって、意気込んでたのに、あいつ休みやがって…寂しいっていうよりも、肩透かしにあった気分」

「…な、なるほど?」

 正直頭が混乱していてよくわかっていないが、とりあえずうなずいておく。

「…え?」

「ん?」

 一拍置いて、ようやく状況…というより、杉浦が言っていた意味を理解して、顔をしかめる。

「つまり喧嘩?したってこと?」

「…んー、そうなるのかなぁ」

 喧嘩というよりも、一方的に別れを告げられたというのが正しい気がする。

 曖昧な返事をする杉浦に、鈴木は呆れたように息をついてパンを齧った。

「なんじゃそりゃ。ていうか、いろいろあってってなんだよ」

「そこは話していいのかわかんないから秘密で」

「うへぇ、一番気になるやつだ〜」

 眉間にシワを寄せる友人に、杉浦はそっと笑った。

「まぁまぁ」

 自販機で買ったパックのコーヒー牛乳を飲んで、彼は口を開く。

「あとでまっつんのところ行って、伊吹の家の住所聞いてくる。そんで、話つけにいく」

 まっすぐ前を向く友人に、鈴木は笑ってうなずいた。

「それがいい。よくわかんないまま話せなくなるのなんて、嫌だもんな。ちなみにそれ、俺も行ったほうがいい?」

「いんや、いいや。必要になったら呼ぶ」

「りょーかい」

 二人は笑い合って、拳を突き合わせた。

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