第三蹴 危機
運動部の部活見学を終えて、下校時間。京は杉浦と共に談笑しながら帰っていた。
「俺、今まで仲良い奴と方向違くて一緒に帰るってのがなかったから、新鮮だわ」
「…俺も、ダチと帰るのは初めてだ」
今までは舎弟とバイクを乗り回して帰宅、もしくは売られた喧嘩を買って相手をボコしながら帰宅するというのはあったが、通常の友人と帰路を歩くというのなかった。しかも、こんな穏やかに。
(平和だ…)
ふぅとため息をつく。
「なんだそれ。そういや、お前前の高校で仲良かった友達とかいなかったのか?」
何気なく聞かれたその問いかけに、京は渋い顔をした。
「…ダチ、というか…」
仲良がよかったかと聞かれたら良かったのだと思う。だが、それは友達というよりも舎弟に近いような…ていうか、ほぼ舎弟である。
「弟みたいな奴ならいた」
結局、そこに落ち着く。
「へぇ〜、年下と仲良かったのか。伊吹、面倒見良さそうだもんな」
「そうか…?」
心からの疑問である。自分では思ったこともなかったし、周囲から言われることもなかった。
「なんか、カリスマ性?ってのがある」
初めて言われた言葉だ。京は目を丸くした。なんだか少し、照れ臭い。
「…杉浦の方が、カリスマ性はあるだろ」
「お、そうかぁ?照れちゃうな」
ケラケラと笑ってこめかみあたりをかく杉浦に、京は小さく笑った。
「お前は運動部の人たちからも信頼されてそうだったし、初対面の奴ともすぐに仲良くなってる」
「お、おう…やべぇ、本気で照れ臭くなってきた。そろそろやめて?」
居心地の悪そうに口を尖らせて、彼は京を軽く睨んだ。
「からかい甲斐もあるな」
「お前、結構いい性格してるな…」
目を半目にして、杉浦は言った。
「褒め言葉として受け取っておく」
それに、京は人の悪い笑みを浮かべて返した。
「くっ、腹立つ…」
ぐぬぬと悔しそうに唇を噛む杉浦に、京はふっと笑った。
「兄貴!!」
その場に、聞き覚えのある少し高めの声が響き渡った。京はとてつもなく嫌な予感を感じて、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこには、京も通っていた中学の制服を着た、まだ幼さが残る顔をつきをした男子が立っていた。
「兄貴〜!」
目に涙を溜めて、腕を広げ、駆け寄ってくる。京に飛び付こうとしたその顔面を、彼は思いっきり鷲掴んだ。そのままギリギリと指に力をこめて行く。
「…
「ギブギブ!すんません、兄貴!!」
腕をばたつかせて謝る虎徹に、京はぱっと手を離した。
「い、伊吹…?」
唖然とした杉浦の声に、京ははっとして、そっと目を向ける。突然姿を現した虎徹に、すっかり気を取られて存在を忘れていた。
「……今のは、見なかったことに」
「悪い、そりゃ無理だ」
「だよな…」
それはそうだろう。目の前であんなことが繰り広げられれば、さすがに見て見ぬ振りはできまい。
肩を落とす伊吹に、元凶である虎徹は首をかしげた。
「兄貴、どうしたんすか。あ、こいつが兄貴を困らせてるんですね!?待っててください、俺がこいつを懲らしめて…!!」
「アホ、俺を困らせてんのはお前だよ」
ゲンコツを一つ、落とした。ゴィンという重い音が鳴る。
「そ、そんなぁ…!」
「杉浦、こいつがさっき話してた弟みたいなやつだ。挨拶しろ」
「う、うす…はじめまして、
ビシッと背筋を伸ばして敬礼する。それに、杉浦は若干戸惑いながらもぺこりと頭を下げた。
「伊吹の友達の杉浦俊っす」
「ダチ…兄貴の!ってことは杉浦さんも俺の兄貴っす!おおぉ!」
一人ではしゃぎ始める虎徹を前に、京は深いため息をついた。今までの努力が水の泡だ。虎徹に悪気がない分、怒らないのが悔しかった。
「…杉浦、今までありがとな。今後は関わらないようにするから、安心しろ」
「え」
諦めたように笑って、京は言う。
「ほら、行くぞ虎徹。どうせうちに泊まってくんだろ」
「さっすが兄貴!懐が深いっす」
犬のように瞳を輝かせて、虎徹はその隣に寄って歩き始める。
二人の背中を、杉浦は口を開けて見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます