第三蹴 部活

 放課後、京は杉浦と別れて鈴木と共に廊下を渡って部室棟へと向かった。まずは文化部を見に行こうと言うことになったのだ。

「うちの高校の文化部は家庭科部、かるた部、アニメ研究会、華道部、茶道部、書道部、合唱部、軽音部、演劇部だ。一番最初にどこ見に行きたい?」

 鈴木が聞くと、京は迷うように俯く。

「あ、甘いもんが好きならやっぱり家庭科部か茶道部を勧めるぜ」

「じゃあ、家庭科部で」

 即答である。

 茶道部もぜひ行ってみたいとは思ったのだが、イメージ的に女子しかいない気がして少し気が引けた。まだ家庭科部の方が男子も行きやすいだろう。

 それにおかしそうに笑って、鈴木はうなずいた。


 ガラガラッと音を立てて家庭科室のドアを開ける。

「こんちはー」

 鈴木が挨拶しながら入ると、ちょうど何かを作っていた様子の部員たちが目を向けた。

(…女子が多いな)

 予想はしていたのであまり驚きはしなかったが、改めて思う京である。

 一人の女子生徒が首をかしげながらこちらに近づいてきた。上履きの色が黄色だ。二年生だろう。他の部員たちはちらちらとこちらに目を向けながらも作業を再開した。

「こんにちは。どうかした?」

「いやー、こいつ今日転校してきたんすけどね、甘いもんが好きで、部活を見学したいって。いいですか?」

 鈴木がにこやかに京を親指で指して言う。それに、彼女は嬉しそうに笑ってうなずいた。

「もちろんよ。男の子は少ないから歓迎するわ。今クッキーを作っているから、よかったら食べていって。私のはもう少しで焼き上がるから」

「…あざっす」

 京がぺこりと頭を下げる。素直に嬉しかった。

「そんじゃ、クッキー食べながら色々話聞こうぜ」

 鈴木の言葉に、彼はうなずいた。

 使っていない作業台に出来立てのクッキーを乗せた皿と紅茶が用意され、京と鈴木はちょこんと座った。

「さてと。改めて自己紹介するわね。私は二年の佐野うさぎ。ここの副部長よ」

 副部長。てっきり彼女が部長だと思っていた。その言葉に驚きつつも、京は口を開く。

「伊吹京っす。一年二組に今日転校してきました」

鈴木俊哉としやです。同じく一年二組っす」

「…お前、俊哉っつーのか…」

 鈴木や杉浦…というか、クラスメイトたちからはなんだかんだできちんと自己紹介をされていなかったので、京は目を丸くして言った。それに、ショックを受けたように鈴木が肩を落とした。

「知らなかったのか…お前…」

「わ、悪い…」

 申し訳なさそうに眉を寄せる京に緩く首を振る。

 目の前で繰り広げられる不思議な会話に、うさぎはおかしそうに笑った。

「あなたたち面白いわね」

「…うっす」

 今まで同世代の女子と話したことなど皆無に等しかった京はたじろぎながらうなずく。

「あのね、うちの部活の部長は男の子なの。伊吹くんが入部してくれたら、きっと部長も喜ぶわ」

 微笑むうさぎに、二人は驚いたように目を丸くした。

「そうなんすか。んじゃ、伊吹も入りやすいな」

「ああ」

 うなずいて、紅茶を一口飲む。

「その紅茶も部長がいつも用意しているのよ。専門店があるらしくて、部長のお勧め」

「へぇ〜…」

 鈴木が匂いを嗅いでから一口飲む。

「たしかに香りはいいっすね」

 京もこくりとうなずいた。

「よかった。部長も喜ぶわ。口に合うかわからないけど、クッキーもよかったら食べてね」

 それに、二人はうさぎの形でくり抜かれたクッキーを口に入れた。サクサクとした食感と程よい甘さが広がる。

「うまいっす」

「っす」

 鈴木が言って、京もうなずく。うさぎが嬉しそうに笑った。

「どんどん食べてね!」

「「っす」」

 彼女のクッキーは、市販のクッキーよりも優しい味がした。

 

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