それまで逃げるだけのウサギだった兵は一転、

川の上を駆ける奇跡の野ウサギになっていた。



別にこれは魔族の特殊技能とくしゅぎのうと言うわけではない。


いやあったとしても人間よりひ弱な民兵に、

そんな力は無い。


これはダイラタンシー現象げんしょうと呼ばれる

自然現象だ。


粘液質ねんえきしつ液体えきたいは、

走っている間は水面にしずまない。


兵が跳び跳ねるウサギに見えるのは、

沈む前に飛び上がり進んでいるからだ。


軽装けいそうにさせたのはこのためでもある。


一方敵いっぽうてきは水面の上をけてせまる我が兵に、

度肝どぎもを抜かれ逃げ出そうとするが、

泥土でいどはばまれ思うように身動きが取れない。


重装備じゅうそうびあだとなって、

必要以上に足を取られている。


途端とたんに戦場は一方的な虐殺ぎゃくさつ舞台ぶたいとなった。


身動き出来ない敵の背後に回り、

竹槍を突き刺すだけの簡単かんたんなお仕事。


その求人文句きゅうじんもんくそのままに、

見方は一人も負傷する事なく、

敵の死体だけ次々に川の中に浮かんでいった。


一方的な地獄絵図じごくえず


暴虐ぼうぎゃくなる戦乱の火蓋ひぶたはこうして幕を開けた。


無数の死体でくされた、

真っ赤にまった川を気分良くながめていると、

副臣ふくしん抜擢ばってきした侍女のダークエルフが

報告してきた。


「敵が森にはいしたこちらの伏兵ふくへいに気付き転進てんしん

 川の上流に向かったようです。

 忌々いまいましい裏切うらぎり者の売女ばいたのエルフをしたがえ、

 敵の別動隊が森に入っています」


誘引ゆういんは成功したか。


その頃我ころわが軍の別動隊が川の上流より、

大量に糞尿ふんにょうと小麦粉をらしていた。


「人間にまたを開く淫売いんばいのエルフ目が・・・ 」


柳眉りゅうび逆立さかだ玲瓏れいろうな声が呪詛じゅそを吐き出す。


余程よほど人間に裏切ったエルフにうらみがあるのか、

副臣のダークエルフは仕切しきりに毒づいていた。



エルフはもともとは、

純潔じゅんけつのダークエルフの中に産まれた奇形児きけいじで、

色白のエルフは魔族の中でも迫害はくがいされており、

そうそうに人間に裏切うらぎったらしい。


俺の世界のゲームやお話の中では、

ダークエルフの方が淫売いんばいだと言われているが、

立場が違えばその立ち位置も違うらしい。



「大丈夫、作戦通りだ」



耳のくエルフが上流の別動隊の存在そんざい察知さっちし、

敵軍の一部が森にくわしいエルフに先導せんどうされ、

こちらの伏兵ふくへいせまってるらしいが問題ない。


 

 

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