モテる兄貴を持つと・・・Yamato&Kaito

夏目碧央

第1話 兄貴のせいで散々な目に

 「城崎岳斗(きのさきやまと)くん、だよね?よかったら連絡先交換しない?」

「は、はい。」

高校に入学したら、毎日のように女の人が俺の所にやってくる。これは、もしかしてモテ期到来か?と思ったが。

「岳斗くん、お兄さんにこれ、渡してくれないかな?」

と、何やらプレゼントを渡されたり。

「岳斗くん、おうちの場所、教えてもらってもいいかな?」

と、キラキラした目で言われたり。

「岳斗くん、今お兄さんは何してるの?」

などと、夜SNSで聞かれたり。

 そう、分かっていた。以前からこういうことがよくあったから。一年間、兄貴と違う学校に通っていたので忘れていた。俺は昔から散々、兄貴のせいでひどい目に遭ってきたのだ。

 

 俺には一つ年上の兄貴がいる。名は城崎海斗(きのさきかいと)。地元の中学に通っていた頃、よく兄貴目的の女子から声をかけられた。俺の家で一緒に勉強しようと言われて二,三人招けば、兄貴が通り過ぎる度にキャーっと悲鳴を上げる女子たち。やっと俺の事を好きになってくれた女子を見つけたと思ったら、俺と歩いている時に兄貴とバッタリ会い、

「うそ、あの人が城崎くんのお兄さん?・・・カッコいい!!」

って、彼女は兄貴に心を奪われた!

 まあ、そんなわけで俺は恋愛で上手く行った試しがない。一番ショックだったのは、小学生時代から仲良くしていた男友達が、毎日俺の家に通っていたのは、実は兄貴と遊びたかったからだ、と知った事。中一の時にそいつは兄貴に告白し、玉砕した。それ以後俺とも全く遊ばなくなった。親友だと思っていたのに。

 学校で、よく言われる事がある。大抵の女子は、

「あんなお兄さんがいて、いいねー。」

と言う。一方で大抵の男子は、

「ああいう兄貴がいるなんて、可哀そうになあ。」

と言う。だが時々男子でも、

「あんな兄貴がいて、いいなあ。」

と言う人がいて、兄貴は女子にも男子にもモテるのだと思う。

 兄貴と俺は、勉強の出来は同じくらいだが、容姿には大きな差がある。兄貴はまさに両親の良いとこ取り。顔は母親似で、背の高いのは父親似。一八〇センチを超えている。俺よりも十センチも高い。更に細かく見ると、目が大きいのは母親似で、まつ毛が長いのは父親似。鼻が高いのは父親似で、鼻筋が通っているのは母親似。唇の形が良いのが母親似で、ほどよくえらが張って精悍な顔立ちなのは父親似。ちなみに、俺は全てにおいて真ん中を取ったようで、両親のどちらかに似ているというわけでもない。

 更に、運動能力が雲泥の差。俺はあまり運動が得意ではないが、兄貴は何においても得意でスーパースター。ずっとサッカーをやっており、サッカー部では不滅のストライカーだ。俺はと言うと、小学校の時には少しサッカークラブにも入ってみたものの、兄貴と比べられるのが嫌でやめてしまった。中学ではバトミントン部に入ったが、レギュラーにはなれたものの、都大会には出られずに終わるという、悪くもないがそれほどすごくもない、至って普通の結果だった。そういえば、俺の引退試合の時、兄貴が見に来たのだが、バドミントン部の女子たちが、俺の応援そっちのけで兄貴にキャーキャー言ってて・・・思い出しただけでもため息が出る。もう、俺はスポーツをやらない方がいいと思う。

 それでも、うっかり兄貴と同じ高校に進学してしまった。学力も同じくらいだし、兄弟がいると入学金が免除だからと母さんに勧められ、剣星大学附属高校に進学した。ここならば大学受験なしで進学できるし、家からも近い。それに、兄貴がやたらと俺を勧誘したのだ。お前もこの高校に来いと。

 兄貴はサッカー部に入っている。そこそこ強い部で、朝練と夕練が毎日ある。そのうえ文化祭で演奏するためのバンドの練習もしており、とても忙しそうだ。

「岳斗ぉ、助けてー。」

学校から帰って来ると、兄貴は玄関でバタンキュー、という事がよくある。呼ばれて二階から階段を下りて行くと、荷物を肩や腕に下げたまま、突っ伏している。

「何やってるんだよ、海斗。」

俺が声をかけると、

「ダメ、疲れた。引っ張ってー。」

だと。仕方なく、俺は兄貴を担いで階段を上る。部活の後にシャワーを浴びてくるようで、体は汚れていないが、鞄の中には汚れ物がいっぱい。だが、この疲れ様では洗濯物を出すこともできないだろう。

「ほら、部屋に着いたよ。」

俺は兄貴をどさっとベッドに乗せる。

「岳斗~、ありがとなぁ。」

ふにゃふにゃ言って、そのまま眠ってしまう。兄貴はとにかくひと眠りしないと、ご飯も食べられないのだ。

「頑張りすぎだって。」

俺は兄貴の制服を脱がせ、ハンガーにかける。そして、鞄の中からユニフォームなどの汚れ物を出し、洗濯籠に入れた。

 兄貴のせいで散々な目に遭ってきたけれど、それでも人気者でスーパースターの兄貴には、誇らしさも感じる。そんな兄を自慢したい気持ちにもなる。それに、兄貴はいつも俺に優しい。こうやって甘えてくることも多々あるけれど。

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