第20話 そして私たちは、立ち向かった。

そんなこんなでキッチンのまな板の上には、大きなお肉のブロックがドーンっと主張。

アンナ曰く、これでもほんの一部らしい。もっと渡そうとする彼女に、慌てて止めたのは英断だと思う。うん。

だってこの量でさえ、3人で食べるには厳しいものがあるから!


ん~、どうするかコレ・・・。


ドラゴンのお肉って、もっと筋肉質の赤身で肉肉しい感じかなって思っていたけど、お腹の部分は柔らかい感じなんだよね。だからって、脂身が多い訳じゃなくて。なんて言ったら良いのか、説明が難しい!う~ん、強いて言うならば、本マグロの大トロ?に近いかな~。火を通したら分からないけど・・・。

試しに、火を通さないで生で食べてみる?ちょっと冒険してみる?でも、食中毒になるのは嫌だな~。私は食中毒になったことないけど、20代の頃ノロウイルスにはなったことあるんだよね。上からも下からもで、あれは辛かった・・・。

生で食べるとすると、急速冷凍して解凍すれば大丈夫かな?


「どうしたの?」


ドラゴンのお肉をどうするか、「う~ん。う~ん」と一人で悩んでいたら、カインが心配して声をかけてくれた。


「う~ん、このドラゴンのお肉を生で食べれないかなって思って」


「・・・生で?」


「なんか、大トロみたいだなって思ったら、イケるんじゃないかなって」


「肉を生でって、ちょっと食べるの怖いかな」


「そうなんだよね、食中毒になるの嫌だしね。・・・あ!『鑑定』で調べられないかな?」


「えっドラゴンの肉を生で食べれるか?」


「そうそう」


「そんなふうに『鑑定』を使ったことないから、出来るかどうか分からないよ。ていうか、『鑑定』ではそんな要素は、普通に提示されないから」


「でも、魔法はイメージが重要なんでしょ?じゃ、やってみないと分からないんじゃない」


この世界での楽しみと癒しは、今のところジャックくんやスライムたちと食なのよ~。あ、マンドラゴラ含まれてないから。


「ん~。じゃ、ノアがやってみる?『創造』を使ってね」


カインの言葉に思わず、驚いて口をぱっかーんと開いて、自分の手のひらをポンっと拳で叩いた。


何故か忘れてしまう、自分の『創造』スキル・・・。

ではでは、早速。


「ドラゴンの肉が生で食べれるか『鑑定』」


ピロン♪と私の目の前に『鑑定』結果が現れた。


『ドラゴンの肉:今の状態では生では食べられません。生で食べるには、急速冷凍をした後に解凍するか、状態異常用のポーションや病気用のポーションに数時間漬け込んだ方が良いでしょう。ポーションに漬け込む場合は、味の保証はしません』


ほうほうほう、へぇへぇへぇ。


「なんて出てるの?」


どうやら、カインには見えていないみたいだね。


「急速冷凍した後に解凍するか、状態異常用のポーションか病気用のポーションに漬け込むんだって。ポーションに漬け込む場合は、味の保証はないらしいよ」


「あぁ、アレに漬け込むのは止めた方が良いと思うよ。絶対に。薬として一気に飲んでしまえば我慢出来るけど、食事として味わうには耐えられない味だからね」


『鑑定』の味の保証はしませんという部分に、カインは力一杯肯定した。


「え、そんなに酷い味なの?」


「とてつもない苦味とえぐみと、鼻を摘まみたくなる強烈な臭いが押し寄せる」


「うわっ、それは飲みたくない・・・」


私はどちらも飲んだことないから分からないけど、深刻そうにカインが言うんだから、その味は酷い物なんだと思う。うん、ポーション漬けは、止めた方が良いね。


「じゃ、急速冷凍の方を試してみる?」


ドラゴンのお肉をカインは指差した。


「うん、そうする」


コクコクと私は頭を上下に振った。


「オレがやるから見てて」


カインは、そう言うとドラゴンのお肉に急速冷凍の魔法をかける。

お肉の周りに、ドライアイスのような煙が出てきたと思ったら、内側から外側に向かって静かにお肉が凍っていく。


「おぉ!」


魚市場の魚屋さんに置いてあった、冷凍されたマグロの刺し身の柵みたいになった。それの超特大バージョンだけどね。


「これって、直ぐに解凍して良いの?」


「あ!駄目だったと思う。確か昔テレビで、アニサキスが死ぬまで凍らせたままにしておくって、やってたの見たことある」


解凍した方が良いのかと聞く、カインを慌てて止めた。

テレビだったかな?本だったかな?ウェブだったかな?見たの。


「そうなんだ。じゃ、どのくらい置いとく?」


「それで見た内容では24時間?だったかな・・・」


自分で口にして気付いたけど・・・長いね。今直ぐにでも、食事の支度をしなければならないのに、長すぎるね・・・。


「あー・・・それじゃ、今日は食べられないね」


「だね・・・」


おう、空気が重い。

どうしよう。また、一から献立考えないと~。


「ん~。でも、もうお昼過ぎてるし、これから違う献立を考えるのは厳しいよね」


「そうだけど、美味しい物とハードルを上げた手前、安易にステーキとかにしちゃうと暴れそう・・・」


あ、カインが頭を抱えたよ。


「暴れる?アンナが?ステーキにしただけで?」


私は首を捻る。


「アンナの凶暴さは、甘く見ない方が良いよ。本当に、ほんの些細なことで暴れるから」


脱力して、力無く首を横に振るカインの姿が珍しい。


「でも、食事を作らないんじゃなくて、定番の物を作るだけだよ?」


「あれは、初めてアンナと二人で大きな町に行った時のこと。昼食を取るため、ある飲み屋件食事処みたいな所で入ったんだ」


突然どうした?急に語り口調になったけど。


「そこでアンナは、カボチャスープが付いたスパイスの漬け込んだ肉と、パンのセットを頼み。暫く経って運ばれてきたその食事には、カボチャのスープじゃなくて蕪のスープが付いてきた・・・」


私の喉がゴクリと鳴る。


「そして30分後、その店は更地になった」


「えっ!」


なんと!暴れたんだろうなと予測していたけど、それを上回るとは・・・。


「幸い死人は出なかったけど、沢山のお金は出ていったね・・・」


フードを深く被っているから分からないが、カインが遠い目をしたように感じる。


「おう・・・」


カインの苦労が目に浮かぶよ・・・。


思わず私は、カインに向かって手を合わせ合掌をした。成仏してくれ・・・。


「で、もう一度『鑑定』してみよう」


「もう一度?」


「刺し身を食べるために、24時間凍らせたままにするのは前の世界のこと。この世界のでは違うかもしれない」


カインが力強く頷く。


「あ!それはあり得るかもしれない!!」


私も力強く頷いた。


「それに掛けてみよう」


「うん!」


これから、とてつもない巨大な敵に立ち向かうのに、私たちは手を取り合った・・・。


・・・あれ?昼食の料理するだけだよね?


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