異世界へ帰還した私の魔力と運が無限ってどういうこと?

taka.///

第1話 プロローグ

『見つけた』


 ふと、頭の中で低くもなく高くもない、男性か女性かわからない不思議な声が響く。


 うつらうつらと寝入りだった為、頭が回らない。これは夢か現か、もしくは気のせいだったのか。でも、それは確かにはっきりと聞こえた。

 しかし、ここは独り暮らしをしている自分のアパートの一室で、他に誰もいないはず。心配してこまめに連絡をくれる両親は合鍵を持っているが、車で片道2時間の実家にいるはずだし、たまに連絡をくれる弟妹も、直ぐには来れない離れた所で家庭を持って生活をしている。

 それに、いくら家族といえ、緊急事態でもないのに深夜に連絡もなく合い鍵を使って部屋に入ってくることはない。


 もしかしたら強盗かもしれない起きなければと思うが、それとは裏腹に意識がずぶずぶと沈んでいく。なのに、体がふわふわと浮いているように感じる。


 あぁ。もう、何も考えられない。


 そして、沈み切る前に、またその声が聞こえた。


『見知らぬ地で生きていくとしたら、どんな力が欲しい?』


 何故そんなことを聞くのか、あなたは誰なんだと普通の思考だったらそう思うのだろうけど、そんなことは不思議と浮かんでこなかった。


『何不自由なく、その土地で生きていく術が欲しいな‥‥‥もう不運無く暮らしたい‥‥‥』


 するっと、そんな言葉が出てきた。


 40年間の幸運ではなかった人生を想い、頭に浮かんだのはそれだった。


 両親は60歳過ぎても若々しくスタイルも良く、母は近所の人たちに美魔女とも言われている。それに、頭の出来も運動神経も良くできた弟妹たち。そんななか、私は家族と似ず、貰われた子だと陰口を言われてきた。更に、体も小さい頃から弱く、人と関わることが少なくて、この年で恋人もいない親しい友人も少ない状況だ。

 それだけではなく、日常的に起こる不運。何かが壊れたとか紛失したとなると、タイミングが良く近くに居たとか事前に手に取っていたいうことで、必ずと言っていいほど自分のせいにされ、誕生日などのイベントには、予約していた誕生日ケーキを作り忘れていたり、季節外れの嵐が来て停電になったりなど何かと問題が起こっていた。でも、私の人生は、こんなものだろうと思って生きていた。

 そんな私の唯一の楽しみは、本を読むことだった。それも非現実な物ばかり、SFやファンタジーなど多くの物語に触れてきた。

 その中の1つに、転生するストーリーがあった。

 もし、自分が転生するのなら、今より少しでも不運の無い人生を選びたいと読みながら思っていた。自分よりもっと辛い想いをしている人はいるだろう。けど、生きて行く中で躓くことなくスムーズに過ごしている人もいるはず。なら、自分もその枠組みに入りたい。だから、次に生まれ変わってくる時は、今世で少し運がなかった分、ほんのちょっとでも運が良くなればいいなとそう願っていた。


 あ、質問からズレてしまった。そうだな‥‥‥見知らぬ土地というなら、その土地土地での風習とかあるだろうし、田舎でも都会でも人間関係は大変そうだし。それは、田舎育ちの自分が身に染みるほどわかる。


 あと、出来るのなら、何も縛られずに自由に生きたいな。ハンドメイドなんかして、自分の小さなお店とか開いて‥‥‥。


 そんな楽しそうなことが溢れ出てくるなか、意識が沈んでいく。でも、感覚的には沈んでいくというよりは、体がふわふわと雲の上に乗っているように浮上していくようだった。




୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧





 自然と目蓋が開く。眠りから目覚めたという感じではなく、瞬きをするのに閉じた目蓋を開けた、というそんな感じだった。その目の前には、闇の空に浮かぶ大きさと色が違う月。それが5つまばらに浮かんでいる。


 あれ?眠っていたはずなのに‥‥‥これって夢の中?それにしてはリアルすぎる。


 背に感じる地面や草がとてもリアルだ。温度、湿り、硬さ、感触の全てが。


「あぁ、綺麗だな‥‥‥」


 上空に浮かぶ5つの月がとても綺麗で、自然とそんな言葉が口から溢れた。とても大きな白い月、中くらいの赤い月と青い月、小振りな緑と黄色い月。それが月なのかどうかは分からない。でも、地球の近くにある惑星は月だと認識していたので、月ということにしておこうと勝手に思った。体を横たえたまま辺りを見渡すと、少し開けた空間にそこを囲うように木々が生い茂ってた。その中央、自分の右側に大きな池があるのが確認できた。


「はぁ‥‥‥なんか神秘的‥‥‥」


 水面に、多色の月明かりがキラキラと反射している。

 こんなにはっきりとした夢を見たのは初めてだとそのまま暫く見ていたが、夢から覚める気配がない。かと言って、場面が変わる気配もない。

 なので、こんな不思議な夢の中を探索してみようと、子供に戻ったようなワクワクした気持ちで体を起こそうとしたが、何故か力が入らずノタノタと体を横に返そうと踏ん張る。やっとの思いで地面に手を付き、よろよろと立ち上がると息を切らしているのに気付く。


 あれ?夢だよね。


 更に、地面についた自分の手をマジマジと見てしまう。さっき手を付いた時に感じた感じた、ゴツゴツしてザラついた地面の感触と僅かな痛み。体重をかけたことによって潰れた草の青臭い香り。


 随分、リアルな夢だな‥‥‥それになんか体が重だるい感じ。


 熱がある時に感じる全身の重怠い痛み。もしくは、前日に重労働をした時の体の疲労感。それに似た感覚だ。


 夢の中でも疲れているなんて‥‥‥。


 そう思ったが、手を見た流れで、自分の着ている服に意識が囚われた。


 あれ?1番良い外出用の服着てる‥‥‥靴も1番良いやつ履いてるし‥‥‥。何故、森の中なのに動きやすい格好じゃないんだろう。夢だからかな?


 もう一度、今度はキチンと周りを見渡す。月などの自然光とは違う温かみのある明かりが、池の反対側にあるのを確認した。明かりの方を意識してじっくり目を凝らして見ると、そこにはログハウスのような作りの味のある建物が建っていた。


 あれって‥‥‥小屋なのかな?それとも家かな?なんか、凄い。池や周りの木々と合わさって、おとぎ話の風景みたい‥‥‥。


 それが、自然とため息が出てしまうほど幻想的にキレイで、思わず引き寄せられてしまう。ふらふらと頼りない足取りで一歩、また一歩と足を進める。月の数が多いからかいつもより強い光が降り注ぎ、それを反射する池の水面のおかげで周囲はとても明るい。更に、歩きやすい平な地面のおかげで、躓くことなく前に進む。

 何故か分からないが、あれに惹かれるものがあった。どうしてもあそこに行きたいと。

 だが、よたよたと歩いているうちに池に近づきすぎたらしく足を踏み外し、あっと思った時には大きな音を立てて水の中にダイブしていた。

 パニックになりながらも、なんとか沈まないようにと必死に体を動かしたが、動かせば動かすほど体は沈んでいく一方で。


 でも、なんで?夢の中なのに苦しい‥‥‥。


 と不思議に思いながら、そのまま意識を手放した。

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