連係プレイ

「どう? そろそろ落ち着いた?」


自分に抱きついて甘える蒼井霧雨あおいきりさめの頭を撫でていたミハエルが柔らかく問い掛ける。するとようやく気分が落ち着いたらしい彼女は、


「……うん」


と小さく頷いて、それから、


「こめんね」


照れくさそうにそう言って仕事部屋へと戻っていった。


それを見届けたミハエルが、


「じゃあ、そろそろ夕食の用意をしようか」


と子供達に声を掛ける。


「は~い♡」


三人は明るく返事をして、キッチンへと整列した。


外見上は三歳くらいの悠里ユーリ安和アンナはもちろん、十歳くらいのミハエルにとっても大人用のキッチンはやはり大きすぎて、それぞれ名前が書かれた専用の台に乗る。


しかし、こうやって並ぶと、ミハエルと悠里と安和は、短めにカットされたプラチナブロンドの髪や深みのある碧眼も含めてとてもよく似ていて、それこそ兄妹にしか見えない。


一方、肩まで伸ばした艶のある黒髪や黒い瞳等々一見しただけでは日本人にしか見えない椿つばきも、よくよく見れば顔立ちがどことなく似ていて、血縁関係があることをちゃんとうかがわせた。


そして悠里は食材を洗い、安和が食材を切り、それをミハエルが調理する。三人が台に乗って作業をしているので移動が手間になるため、椿は三人の間をちょこまかと移動し、食材を運んだり皿などの用意が役目だった。


その姿がとても健気で愛らしい。ただし、見た目どおりの年齢なのは椿だけである。三人の父親であるミハエルにいたってはすでに三桁に届こうという年齢なのだから。


とは言え、可愛いのは間違いなく可愛いけれど。


そして四人は息の合った連係プレイを見せ、手際よく料理を作ってみせる。


今日はシーフードカレーだ。しかもルウから手作りする、オリジナルカレーである。


ミハエルがルウを作ってる間に悠里が、


「~♪」


と鼻歌交じりに洗ったイカを、安和がぺティナイフで、


「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ!」


とリズムを取りながら手際よく処理していく。


小さなぺティナイフであっても、三歳くらいの子供の手にはさすがに大きいのに、安和はそれを自在に操る。これは、吸血鬼と人間の間に生まれた<ダンピール>ゆえ、人間では成人男性ですら手も足も出ないほどの身体能力を持つおかげなので、決して人間の子供にも同じことができると思ってはいけない。


そしてこの中では唯一ただの人間である椿も、能力こそは人並みなものの、その振る舞いはとても十歳とは思えないくらいにしっかりしていて、きちんと自分の役目を理解していた。


こうして一時間ほどで、蒼井家特性カレーが出来上がったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る