第13話

天空のシエルの城は中央に優美な尖塔が建てられている。

クラリスの母、女皇の住まう塔である。

日の光に照らされて真白に輝く女皇の塔は、陽光リュミエールの塔とも呼ばれ、この国の象徴として愛されている。

塔の周りには国事に必要な様々な施設が集められ、天空のシエルの城を形成している。そこには、国政を支える者達が忙しなく往き来している。

天空の国でありながら、豊かな水に恵まれているこの国では、移動手段のほとんどに水路を使用している。国の中枢である、陽光リュミエールの塔周辺、城の内部でも同様であり、塔の周りには、螺旋のように水路が作られ、更に塔の裾にある施設の間を巡り、繋げている。

城の外周には、水路や水道橋が芸術的に張り巡らされ、そこに暮らす人やモノ達の住まいがある。

日常の移動に使われる水路もあれば、あちらこちらから水路が合流し、マルシェと呼ばれる水の広場もある。

もちろん、マルシェには様々な種類の行商ゴンドラが集い、市場マルシェが開かれている。また、行商ゴンドラだけでなく、水路のあちこちには、居住用ゴンドラや飲食ゴンドラなど、移動できる店舗や住居で賑わっている。



クラリス達三人も、水路を辿って城に向かっていた。

「お父様、今日は特急を使うのですね。」

クラリスは騎士シュヴァリエであり、父でもあるライオネルに声をかけた。

「ああ。

賢者サージェや、探求者シェルシエル達が、ジャルダンでの話を聞きたがっていたからね。

彗星カジキ便にしたよ。」

流線型のゴンドラを牽くのは、ヒレ持つモノの中でも、スピード系レア種の彗星カジキ。鋭角なフォルムに流れ星のような模様をもち、水流を逆に進むことも、混み合っている水路を通り抜けるのも得意なため、水路を進むゴンドラの中では特急便と呼ばれている。

彗星カジキに牽かれたゴンドラは、スピードに乗り、どんどん城に近づいていく。

「特急も爽快ですけれど、私は、水玉カエル便なんかでのんびりとマルシェを巡るも好きですわ。

あ、お父様、水玉カエル便デート、しませんこと?」

クラリスが流れる景色を楽しみながら言うと、それまで黙って主の話を聞いていた黒髪メイドが白い目を向けた。

「姫様...マルシェで食べ歩きしたいだけでしょう。

...ドレスが入らなくなりますよ?」

「そこは、マヤの技術うでで何とかしてちょうだいな。順番まで日があるから、よろしくね!

マルシェ巡り、新作グルメやスイーツが絶対出てますもの。

美味しいものの誘惑には勝てませんわ~。

ね、お父様、デートいたしましょ。」

腕を組み、にこやかに父を見上げるクラリス。娘に甘い父親はすぐに陥落してしまう。

「もちろん、いいとも。

次の順番まで余裕が出来たから、喜んでお伴させていただきますよ。姫君。」

黒髪メイドの白い目に負けず、きっちり約束を取り付けたクラリスは、ニッコリと微笑んだ。

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