第5話

玉座のアンリ三世の前には、虹色の扇で口元を隠したクラリスが立っていた。


(わたくし、これを何とかしないといけないのかしら...)

伴侶候補、婚約者候補の辞退は自由ですけれど、辞退の仕方によってその後が決められているのですよね。

花びらの国コリエペタル五国の王族はみな、国主教育で学んでいるはずなのですが...あの方はお勉強がお出来にならなかったのでしょうか。

まぁ、たまにこういうケースがあります。

普通に『辞退』の申し出があった場合は、自国の王族として勤めあげるなり、他の方とご結婚されるなり、その方の自由意思になるのですが...竜皇女を貶めたり、故意に傷つけようとしたり、悪意をもって申し出たりされる場合、コリエペタル五国にいられなくなるのですよね。

元はといえば、始まりの竜女神たる眠れる竜帝さまが過保護なせいです。

娘を害する可能性は極力排除する!という強い意志が現代まで連綿と続いているのです。

実際に追放された方は、自国に戻ろうとされても足を踏み入れることが出来ないそうです。


アンリ三世さまにはお気の毒な事かもしれませんが、お子さまの教育進度の確認をされなかったのが原因でしょう。

わたくしには、どうすることも出来ませんわ。

あの方がご自分の意志で口にされた言葉ですから。


「クラリス様。

誠に申し訳無かった...!

せっかくの我がジャルダンの順番であったものを...

次の機会には、必ずや挽回させて頂きたい!

伏して、お願い申し上げる!」

アンリ三世さまが、わたくしの前まで来て頭を下げられました。

これは、答えておかないといけないと思います...が...

「花とレースの国、ジャルダンの国主陛下。

姫様は厳正に順番を守られます。

ですが、次の機会が廻ってくるとは断言できかねます。

御了承下さいませ。」

マヤに取られました。

やはり、ネコに逃げられたのがいけなかったのでしょうか。

喋らせてもらえません。



黒髪メイドが踵を返し、先導するように歩き始める。

クラリスはホールに集う、きらびやかな紳士淑女を見渡し、扇を下げて軽く首をかしげで会釈する。

この中で一番位の高いクラリスは腰を下げてはいけないのだ。

ゆっくりとあくまで優雅に退出する。




予定の時間より大幅に短くなった夜会の参加時間に気づいたクラリスは、

(あら、ラッキー!)

と思いながら、群青のドレスを脱ぎ、化粧を落とし、いつもより早めの就寝が出来たのだった。


「あ、やっぱり順番を守らないといけないのよね。

次は...どこだったかしら..」

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