13話 お泊り③~重なる想い~

 いったいどれだけ話しただろうか。少なくとも、学校での数日分に相当するのは間違いない。

 同時に大きなあくびを漏らしたのを機に、そろそろ寝ようということになって洗面所に赴く。

 洗顔と歯磨きを済ませて部屋に戻り、電気を消して再びベッドに腰掛けた。

 すぐ横にならなかったのは、眠気よりも『まだ寝たくない』という意思の方が強かったからだろう。

 肩を並べて座る二人の間に、隙間は存在しない。

 あえて間隔を詰めるまでもなく、写真を撮ったときと同じように密着している。

 徐々に目が慣れていき、カーテン越しの月明かりで室内がうっすらと照らされていることもあり、隣を向けばつぐみさんの姿をしっかりと視認できる。

 意図せず鏡合わせのように同じ動きをして、二人の視線が重なった。

 一抹の照れ臭さを感じながらも、目は逸らさず、むしろジッと見つめ合ったまま、柔らかく微笑む。

 手をそっと重ね合わせ、指を絡める。


「つぐみさん……」


「美夢ちゃん……」


 お互いに経験がないにもかかわらず、わたしたちは一切の迷いも躊躇もなく、ゆっくりと顔を近付け、そっとまぶたを閉じた。

 目にはなにも映らない。耳に入るのも、愛する人の吐息だけ。

 顔にかかる温かな吐息が期待と興奮を煽り、高鳴る胸の鼓動をさらに速める。

 そして――



 ちゅっ



 湿り気を帯びた小さな音が鳴った瞬間、許容量を大幅に超える幸福感が、頭の中を真っ白に染め上げた。

 痛いほどに脈打つ心臓が思考を呼び起こし、全神経が幸福の発信源――唇へと集中する。

 ぷるんっと柔らく、温かな感触。

 高揚感は際限なく強まり、冬の寒さを打ち消して余りある熱が全身を駆け巡る。

 蕩けるような甘い快楽が脳を支配し、思考も五感も、キスのためだけに働く。

 熱い吐息が混ざり合い、唇の間からは淫靡な水音が漏れる。

 やがて緩やかに唇が離れるも、二人を繋ぎとめようとするかのように唾液が糸を引く。

 千切れた糸が小さな雫となり、滴り落ちてしまわないよう、舌で舐め取った。





「キス、しちゃいましたね」


「うん、まだドキドキしてる」


 ベッドに横たわって布団を被った後も、わたしたちはなかなか寝付けずにいる。

 身を寄せ合って寝るというだけでも充分すぎるほど刺激が強いのに、キスの余韻が未だ冷めやらない。


「つぐみさん、大好きです」


 誰にも邪魔されない、二人きりの時間。

 飾り気のない言葉が、自然と口からこぼれた。


「わたしも……わたしも、美夢ちゃんのこと、大好きっ」


「……っ」


 つぐみさんが発した想いを受けて、わたしはハッと息を呑む。

 込められた気持ちが、ちゃんと伝わってきたから。

 親友としてではなく、恋人としての、好き。

 嬉しくて、ただひたすらに嬉しくて、抑え切れない感情が、涙になって溢れ出る。

 声を出せば嗚咽に変わってしまいそうだから、代わりに布団の中で手を握りしめる。

 それに応えるように、つぐみさんもギュッと握り返してくれた。

 いまはまだ、ドキドキして眠れそうにないけど……。

 今夜はいつになく幸せな気持ちで眠りに就けそうだ。

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