11話 お泊り①~チャンス到来~

 五限目が終わってスマホを開くと、家族用のLINEグループに連絡が届いていた。仕事の都合で、二人とも明日の朝まで帰れそうにないらしい。

 体調が心配だけど、幸いにも明日は休日だ。家事はわたしに任せて、ゆっくり休んでもらおう。

 ――あれ? よく考えたら、これってチャンスなのでは?


「つぐみさん、今日って部活が終わってから予定ありますか?」


 廊下でつぐみさんと合流して軽いあいさつを交わした後、すぐさま質問を投げる。


「ないよー。美夢ちゃんも空いてるなら、どこか遊びに行く? 時間が時間だから、場所は限られちゃうけど」


 やった!

 第一条件をクリアし、心の中で盛大にガッツポーズを決める。


「よ、よかったら、うちに来ませんか?」


 つぐみさんを家に誘うのは二度目とはいえ、やっぱり緊張してしまう。


「えっ、いいの? 行く行く~!」


「それで、あの……お泊りなんて、どうかなって、その……思っているん、ですけど……」


「わーっ、楽しそう! でもいいの? 急に泊まったりして迷惑じゃない?」


 断られるかもしれないという不安から解放され、ホッと胸を撫で下ろす。

 両親が朝まで不在であることを説明し、晴れて初のお泊り会が決行されることとなった。




 六限目と部活を経て、集合場所である校門前に駆け付ける。

 つぐみさんは一度寮に戻って支度する必要があるので、もう少しかかるはず。


「美夢ちゃんっ、お待たせ!」


 予想の何倍も早く、つぐみさんが姿を現した。

 肩で息をしていて、真冬なのに汗だくだ。どれだけ急いでくれたのか、一目で分かる。


「全然待ってないですよ。むしろ、つぐみさんがこんなに早く来てくれて驚いてます」


「美夢ちゃんと少しでも長く、一緒にいたかったからね。後先考えず、全力疾走しちゃった。ふー……よしっ、もう大丈夫! 息も整ったし、そろそろ行こっか」


 え? えっ?

 つ、つぐみさんが、わたしと少しでも長く一緒にいたいって……ど、どうしよう、嬉しすぎて泣きそう。


「はい、行きましょうっ」


 涙をグッと堪え、笑顔で答える。


「あっ。でも、まずは汗を拭いてください。風邪を引いたら大変です」


 わたしはバッグからハンカチを取り出し、つぐみさんの汗を拭った。

 そして肩を並べて歩き出し、コンビニに寄ってジュースとお菓子を調達してから家に向かう。

 学校からそう離れていないとはいえ、家に着く頃にはすっかり辺りが暗くなっていた。

 荷物を置いて手洗いうがいを済ませたら、さっそく夕飯の支度に取り掛かる。

 愛情をたくさん込めたごはんを味わってもらった後は、お風呂の給湯ボタンを押してから部屋に移り、半時間ほど話し込む。


「そろそろお風呂が沸きますね。せっかくですから、一緒に入りますか?」


 なんて、冗談半分で言ってみる。

 旅館や銭湯ならともかく、家のお風呂に二人で入るのはさすがに窮屈だ。

 わたしとしては大歓迎だけど、きっと断られるだろうなぁ。


「そうだね、一緒に入ろう!」


 ………………へ?

 自分から提案したものの、まさか受け入れてもらえるとは思っておらず、驚きのあまり目を丸くする。




 つぐみさんと一緒にお風呂。

 着替えを持って脱衣所に足を踏み入れてようやく、この夢のような出来事を、現実として認識することができた。

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