第9話 僕の奥の手

(このままでは負けてしまう……。何か手は……?)

僕は前を飛ぶ和幸のY22を追い掛けながら考えていた。

「……そうだ、もうこれしかない……」


僕は東京湾上空でF53をアフターバーナー出力に入れた。一気に速度が上がり、前を飛ぶY22を五菱重工ビルの1キロ手前で抜いた。


「でも、拓也さん、このままじゃ、屋上のヘリポートを通り過ぎてしまいます!」

真理の叫び声が僕の耳にこだました。


「良いんだ! 真理! F53は頼む!」

僕はそう言うと両足の間の赤いレバーを思い切り引いた。


その瞬間前席のロケットモーターが点火して僕は空中に打ち出された。ベイルアウトした僕はその激しいGに堪え、五菱重工本社ビルの上空でパラシュートを開いた。

そして一気にビルの屋上を目指す。目の片隅に和幸のY22が着陸態勢に入っているのが見える。和幸は目を見開いてパラシュート降下をしている僕を見つめている。


僕は和幸より先に屋上に舞い降りると、背負ったパラシュートを投げ捨てた。Y22が着陸して和幸がヘリから飛び出して来る。その5メートル前を僕は屋上から降りる階段を走った。

そしてスタートしてから200分丁度で、展望レストランの部屋に和幸より先に飛び込んだ。勿論、一番乗りとして……。

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