第26話 魔王様は首狩りがお上手


「これでは勝てんな」




 魔王サタナスは冷静に目の前の戦況を見てそう判断した。


 敵はこちらの一枚も二枚も上手だと認める。認めるしかない。終始伏兵を警戒していたが、もしかしたらこちらが警戒することも織り込み済みで正面に全ての戦力を置いたのかもしれない。いや、あるいはこちらに対して伏兵を出すまでもなかったという事か。




「敵を甘く見たつもりはなかったのだが……。どうやら余の目は曇っていたらしいな。これでは伏兵を警戒していた者たちを前線に出しても勝機は薄いであろうな。仕方あるまい」




 魔王サタナスの言葉を聞く部下たちは絶望していた。魔王が諦めた。勝てないと言う。つまり自分たちは滅ぶしかないのか? 誰もがそう思った。


 そんな部下たちに魔王サタナスは笑みを浮かべながら言う。



「案ずるな。このままでは勝てぬと言ったのだ。誰でもいい。今攻めさせている同胞たちを下がらせ遠距離からの攻撃を徹底させよ」




 そう言って魔王サタナスはゆっくりと歩きだした。人間たちと魔族が今まさしく争っている場所に向かってである。


 魔王サタナスが歩き出して数秒後、部下たちは理解し、驚愕した。魔王サタナスは単騎で前線に向かうつもりなのだ。あの爆弾を装着している無数の人間たちの渦中へと飛び込んでいくというのだ。無謀以外の何物でもない。




「ま、まさか魔王様自らが向かうというのですか!?」


「危険です! 敵は未だ多勢。それに倒しても爆発してこちらを道連れにしようという狂った連中です。それを――」




「愚か」



 魔王サタナスがそう言うと同時に――ドサッ――と何かが崩れ落ちる音がした。続けて、先ほどまで魔王サタナスを諫めようとしていた魔族の一人が倒れ伏した。首を刈られた状態でだ。



 遅れてその魔族の首は地面へと落ち、絶命した。




「我ら魔族は恐怖されるべき存在。では恐怖とは何か? それは理解できぬ事だ。理解のできない存在に出合った時、生物は恐怖する。狂っているというのは恐怖に支配された者が言う事だ。貴様は恐怖に支配された弱者だ。そんな者が我ら魔族の幹部? 笑わせてくれる。貴様には生きている価値などない」




 その場にいた魔族には理解できなかった。魔王サタナスの言い分がではない。今のは士気を下げさせまいとする行いであったのだと考えれば妥当と思える。分からないのは、どうやって幹部である魔族の首を切り落としたのかだ。魔王サタナスが持つ刀は未だ鞘に納まったまま。抜かれていないのにどうやって幹部でそこそこ程度には強いはずの魔族を屠ったのか?




「さぁ、どうした? 早く攻めている同胞たちに下がるように言わぬか。それと余に危険だなんだのと言っていたな? であれば余についてくるか? まぁ余の邪魔になるようであれば斬り捨てるがな。くくくくくく」




 そう言って魔王サタナスは歩みを再開する。


 それを追おうとする者は誰も居なかった。




★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★




「さて、同胞たちが距離を取る時間を作らねばな」




 魔王サタナスは腰にある刀を手に取り、人間達の進行を防ぐ。




「死にたくない、死にたくないよぉ!!」


「お前らのせいで……お前らのせいでぇぇぇぇぇ!!」


「ぐすっ、ひっく、うああああああああああ」



 攻めてくる人間たちは皆必死だった。恐怖に支配されての特攻。それを可能とする指揮官の異常性。



「敵ながらあっぱれだ。恐怖で縛るという点において、余より数段秀でていると認めざるをえまい」




 そうして迫る人間たちに向かって刀を抜き、まずは三人の首を刈る。しかしそれだけでは終わらない。サタナスは即座に後ろへと飛びのき、刀も鞘へと納める。




 ――ドガァッ――



「ぶげっ」


「ぐひゃっ」


「ぼふふぁぁ」




 首を刈られた三人だけではなく、爆発に巻き込まれた人間たちが絶命していく。爆発は爆発を呼び、約十人ほどが絶命した。




「やはり手動ではなく、死ぬと同時に爆発するようだ。こうして爆破の範囲から逃れて攻撃し続ければ自爆する。それが弱点よな。……とはいえ数が多い。イービルとやらの元まで辿り着くまで手こずりそうだ」




 魔王サタナスは笑みを浮かべ、同じように爆発に巻き込まれないように人間たちを斬首していく。何十人も……何百人も……何千人も……。



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