他人の心の傷が身を持ってわかる優しい世界で少女が人を傷つけない生き方を模索する話

■あらすじ

 他人を精神的に傷つけるとその傷が自分自身に返ってくる。そんな馬鹿げた現象が世界の常識となった日、イジメを始めとする様々な暴力に真っ赤な花が咲いた。


 世界が血で染まったその日から約一年、他人を傷つけないよう神経質なまでに気をつかうストレス過多の優しい世界が広がっていた。世間では様々な俗説が飛び交っていた。

 イジメによる自殺を憂いた神様が起こした奇跡だという根も葉もない噂と共に、不特定多数による検証レポートが人気を集めていた。そこには他人への暴力、罵倒が打撲やリストカット等の自傷となって返るといった事実から、落ち着いた人程返す傷が小さい、大切な人からの傷は重症化しやすい、そんな確証のない俗説まで節操なく載せられていた。


 自傷する少女(以下、自傷少女)は話し掛けてくる人に毒舌で片っ端から噛みつき、返り傷で血だらけになる高校生活を送っていた。相手と親密であるほど返る傷も大きくなるという俗説を信じ、距離を置くために近づく人を口撃する。

 同級生から自傷少女への不満が限界に達し、自傷少女と彼女に不満のある生徒の間で血みどろの言い争いになる。泣きながら暴言を吐く自傷少女を同じクラスの少年が連れ出す。自傷少女はどれだけ罵声を放っても少年から傷が返ってこないことに驚く。


 誰も傷つけない人になりたい。自傷少女の望みを体現したような少年に自傷少女は興味を持つ。きっと鋼の精神で痛みをコントロールしてるに違いない。自傷少女が、弟子にしてください!と頼み込むと少年は苦笑した。弟子は無理だけどパートナーならと約束する。互いの望みを叶えるために共闘する同盟を作る。自傷少女は誰も傷つけない人を、少年は友達の多い明るい人を目指して。

 少年が他人を傷つけないのは本人の性質によるもので自傷少女の参考にはならなかった。肉体的、精神的な痛みに鈍くほぼ無痛の体質らしい。代わりに無痛の少年(以下、無痛少年)は提案する。寺でやってるような精神統一の修行に参加したらどうかと。また交友関係が広いと依存心が弱まって返す傷が小さくなるという噂があった。校外のサークルに参加して友達作りを試みる。自傷少女は傷つけたクラスメイトに今までのことを謝罪し、教室にも少しだけ友達ができる。

 無痛少年は深刻なコミュ障だった。教室でもサークルでも全く友達ができない無痛少年は自傷少女に頼んで高校デビューを試みる。容姿、服装、空気の読み方等、ことごとくダメ出しを食らってへこむ無痛少年にクスリと笑い、自傷少女は街を巡って全身をコーディネートする。自傷少女のフォローを受けながら少しずつ友達を増やしていく。


 サークル帰りの駅前で、長いこと会っていなかった親友にバッタリ出くわし自傷少女は逃げ出す。かつて自傷少女が返した傷で大怪我を負った大切な友人。無痛少年に後押しされ自傷少女は親友と仲直りする。


 二人の活動が軌道に乗ってきた頃、無痛少年が予定をドタキャンすることが多くなる。また季節外れの長袖を好むようになった。訝しむ自傷少女だが無痛少年にノラリクラリと躱される。

 自傷少女が学外のサークルで知り合った大学生からデートに誘われたのはそんな時だった。二人の同盟に支障をきたすかもと無痛少年に相談すると、話が拗れ大ケンカの末、同盟関係の解消を示唆される。その言葉に傷ついた自傷少女は無痛少年の手足に深い裂傷を作ってしまう。大切な人からの傷は重症化しやすい──自傷少女の心に刻まれた有名な俗説。これ以上、無痛少年を傷つけないように彼から徐々に距離を置くようになる。


 校内で傷を返さない人間として知れ渡ったことで、数週間前から無痛少年はストレスのはけ口としてイジメの対象になっていた。エスカレートする行為に異変を確信した自傷少女は、口止めされていた同クラスの友人から状況を聞き出しイジメ現場に踏み込む。ボロ雑巾のようになった無痛少年を目にした瞬間、ひしゃげるような心の痛みと共に自傷少女の視界が真っ赤に染まった。


 病院のベッドで眠る無痛少年を見つめ自傷少女は決意する。同じことを繰り返さないよう無痛少年のそばで見守ること。どのみち誰かが無痛少年を傷つけるなら、その役は自分でありたい。

 自傷少女は左手にある治りかけの傷を撫でる。無痛少年との大ゲンカの後にできていた小さな傷。これが無痛少年の痛みなら──自傷少女にはとても愛おしく思えた。寝起きの彼に傷のことを聞いたらどんな顔をするだろうか。楽しみ過ぎて自傷少女はずっと笑顔が止まらなかった。



■物語の障害

・自傷少女は人を傷つけたくない。

 →無痛少年を傷つけるのを恐れて距離を置く。

 →痛みと傷を互いの想いの表現として受け入れる。

・無痛少年は友達を作りたい。

 →自傷少女の力を借りて高校デビューする。

・無痛少年がイジメの絶好のターゲットになる。

 →自傷少女が現場を押さえたことで全員が病院送りになり明るみに出る。

 →どのみち誰かが無痛少年を傷つけるなら、それは自分がいい。自傷少女は歪んだ独占欲に気づく。



■登場人物

・傷だらけの自傷少女

 高校一年。

 話し掛けてくる人に毒舌で片っ端から噛みつき、返り傷で傷だらけになる。相手と親密である程、返る傷も大きくなるという俗説を信じ、距離を置くために近づいてきた人を攻撃する。

 素は気分屋でわがままないたずらっ子。他人に依存しがちで心が弱く、返す傷が大きい。誰も傷つけないようなおおらかな大人になりたい。


 中学三年の時、クラスのリーダーの気まぐれでイジメのターゲットになり、支えてくれた親友に裏切られたことで心に深い傷を負う。跳ね返った傷により親友に重症を負わせてしまい塞ぎこむ。親友の服から出てきたボイスレコーダーから、親友がイジメに迎合したフリをしてイジメの証拠集めをしていたことを知る。仲直りしたいがまた傷つけてしまうのが怖くて会いに行けていない。



・痛みにひどく鈍感な無痛少年

 高校一年。

 長年のイジメにより心や身体の痛みに鈍感になっており、痛めつけられてもほとんど傷を返さない。性格はおおらか、もしくは平坦。イジメる人達に対して嫌悪感も憎悪も抱いていない。

 人との関わりが乏しかったためコミュニケーションが苦手で、空気が読めず行動が斜め下を行く。それを自分でも理解しているため自信がない。


 空気の読めなさから長年イジメられていたが、中学二年で無痛少年をかばった友人にターゲットが移ったことでイジメから逃れる。限界に達した友人が自殺未遂をしたことで顛末を知る。長期入院で留年した友人に時折会いに行っている。

 友人のような明るくて友達の多い人に憧れている。



■舞台

未定。



■その他設定

なし。



■その他アレコレ

・イジメられていると最初はイジメてる相手に対し死ねばいいのにみたいな強い気持ちになるんですが、だんだん諦めの、もしくは悟りの境地に近づいて何もかもどうでも良くなったりします。当時の気持ちになって物語を起こしたら、いじめっ子を血祭りに上げているようで、その実いじめられっ子の方がより血みどろになる不思議な話になりました。

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