第一章21 《謎のあだ名は再びに!》

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 どうやらアメリカンショートヘアの子猫らしい。



 気持ち良さ気に東先輩の膝の上で眠るホワイトを横目に眺めながら、俺は何故か四夜に子供ビールなどと言うパチもんをラッパ飲みさせられていた。

 深夜テンションに突入したのか、それを異様に嬉しそうな顔で行っている四夜は新しく加虐趣味かぎゃくしゅみにでも目覚めたのだろうか?



 されてる俺の気持ちにもなりやがれ! クソッ……。



 所でだ、話を戻すと




「それは僕からお話します」




 そう言った東先輩の内容を完結に纏めるならこうなった。



 猫を飼う事になったから、だ。



 動物アレルギーやその他面倒な理由から大抵の部活寮では動物の持ち込みは厳禁だと言う。

 このままではホワイトを飼えないので、そう言った禁即事項の無いこのバンド部に入ったらしい。




「元々は硬式テニス部に所属させて頂いていたのですが、ホワイトの事やその他ちょっとした事情も有りまして退部させて頂きました。僕もこの学園に住み込みをさせて頂いている身なので、行く宛も無く途方に暮れていたのですが、そこを浅倉先生に拾って頂いたのです」



「さらにあずまッチは楽器だって一通り弾けるんだよ?音楽の先生をやっているこの私のお墨付きさっ!ホワイトちゃんだって可愛いし、これはもう誘わない理由がないよね♪」




 今度は何だ……あずまッチ!?

 だからどうしてあんたら二人は東先輩をそんな変な呼び方で呼ぶんだ。



 所が当の本人と言えば、全く気にする素振りも見せず、崩れる事の無い爽やかなイケメンスマイルで平然と受け入れている様だった。



 まあ貴方がそれで良いなら俺は何も言わねぇよ。




「へ~そんな理由が有ったのね。どうせ訳アリだろうとは思っていたけどまあ良いわ。ホワイトちゃん可愛いし」




 そう言うと四夜は東先輩の膝の上で尚も眠り続ける真っ白な子猫の頬っぺを髭に当たらない様にぷにぷにと触る。



 何だろう、不思議と見ていると和ましく思える風景だ。

 美少女と子猫……四夜だって普段から黙って優しい顔していれば俺だって幸せだろうに。




「それと、先生から皆にプレゼントがあるのよ~♪ ほれほれっ!」




 何やら手の平サイズの電化製品の箱を3つ取り出すとそれぞれに配る。




「先生、これって何ですか?」



「ポケベルだよ♪ ファー君知らないのかい?」




 ちょっと待て、今……俺の事を何て呼んだ。




「ファーったらポケベルも知らないって何世紀前の人間よ。時代遅れも甚だしいわ」




 おい、ポケベルとやらを俺は確かに知らないが、その前に俺の事を何故そのあだ名で呼ぶのか小一時ほど間問い詰めさせろ。




「流石にそれは言い過ぎでしょう。ポケベルだってここ数年で普及した機器ですし。まぁファー君がそう言った物に疎い人生を送って来たと思えば……」



「ちょぉおおっと待てやゴルァア! どうして皆で俺の事をそう呼ぶんだ!ポケベルとやらの話は後だ!」




 俺は勢い良く木製の椅子から立ち上がると、バンッとビールの山が崩れる程の勢いでテーブルに手を叩き付ける。



 その風景を興味無さげに片目で眺める四夜は、ブラウン管テレビで流れている何とも平成初頭らしい制限の少なそうな過激なバラエティー番組を眺め、子供ビール片手に呟く。




「そんなの決まってるじゃない。今日からファーも私のバンド部の部員よ。いつまでもあんた呼ばわりしてたら不自然じゃない。皆もそう思ってるのよ」



「そうだよ~ファー君っ♪ それにこのポケベルはちょっとした部員の証明見たいな物だしネ!これさえ有れば何時でもどこでもお互いに連絡が取れる一種の絆装置見たいな物だよ。誰でも携帯を持ってる訳じゃないし、メールも送れて便利だから持ってて損も無いと思うしね!」




 何時でも何処でも……か。



 数十年先の未来ではその繋がりは一般化して欠片も有り難みなど感じ得なかったのに、今となっては分かる気がした。




「後……ファーってあだ名……私は気に入ってるのよ。意味合いも素晴らしいし呼びやすいし、何よりあんたにピッタリなマヌケな響きじゃない!」




 そういうと四夜はさぞや面白そうに子供ビール片手に腹を抱えて笑い出す。



 何だろう、こうやって身近な人に親近感をもって接して貰えるのは何年ぶりだろうかと不思議な感傷に浸ってしまったじゃないか。



 少し恥ずかしいが、不思議と悪い気はしなかった。




「さてさて~メインイベントを始めようじゃにゃいか! ファー君との約束通り203号室のメンバーが増えたからこれよりルーム内序列のシャッフルを行う!者共よ、カードをトリタマエ!ババ抜き戦じゃ~!♪」



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