第29話 お着替え完了な魔王

「カケル、準備ができたわよ」


 ナギが扉から顔だけをのぞかせて声をかけてきた。結構話し込んだ気がする。意外と時間がかかったんだな。

 俺はお爺さんとお婆さんに会釈をしてそちらへ向かう。


「あ、これ持って行ってもらえる? 悪いんだけど」


 お婆さんがお盆を渡してくる。それにはオレンジジュースとバームクーヘンが二つずつ乗っていた。それを受け取ってナギの部屋に向かう。


 ナギの開けてくれた扉をぬけ、部屋に入る。ベッドがあり、勉強机があり、クローゼットがあり、部屋の真ん中にはクッションに挟まれてテーブルがある。装飾はそれほどないけど、置いてある物自体が女の子らしい可愛いデザインの物だ。


 そして肝心のナギはというと。


 お出かけ用だが、普通に服を着ていた。


 でもさっきまでと違う服だから、着替えはしたらしい。


「それはテーブルに置いて、そっちに座って」


 ナギの指示でお盆をテーブルに置き、クッションに座る。ナギはその反対側のクッションに正座で座った。


「……」

「……」


 奇妙な間があく。

 扉の外からお婆さんの声が聞こえてきた。


「ナッちゃん、私らちょっと出かけてくるから、留守をお願いね」

「はーい」


 そして、玄関の扉を開閉する音がした。

 気を使われたのか? っていうかこれ、家に二人きりなんですけど、そういう状況は気にしなかったのか?


「あー、お披露目じゃなかったの?」


 俺が意を決して言う。が、内容のチョイスを間違った気はする。期待していたと思われるのもなんだし、催促してるみたいにとられてもなんかヤだ。まあ、期待は少しはしていたんだけれども。


「そうなんだけど、部屋で水着を着てみたら、場違いすぎて変態みたいだったから」


 ナギがちょっと目をそらしながら言う。ああ、気持ちはわかる。それで着替え直してたから、ちょっと時間がかかってたんだな。

 俺は、一種の緊張から開放されて、ホッとしていた。


「じゃあそれはまたの機会で、今日は……」



「だから、罰ゲーム方式にしたの」



「……は?」


「これからゲームを行います。それに負けた方は、服を一枚ずつ脱いでいきます」

「つまり、脱衣ゲーム? いやいや、そっちの方が変態っぽくないか?」

「見たくないの?」


 ゲームをしたいかどうかじゃなく、水着を見たいかどうかで聞くなんて、巧妙すぎる。見たくないなんて言えないじゃないか。


「じ、じゃあ、なんのゲームをするの?」

「脱衣ゲームの定番といえば野球拳だけど、結局ただのじゃんけんだし」


 野球拳って今通じるのか?


「脱衣麻雀ってのもあるけど、ルール知らないし。そもそも麻雀牌無いし」


 そう言って取り出したのは。


「てことで、トランプよ」


 パーティーゲームのド定番きたー。


「ルールは? ポーカー? 大富豪?」

「ババヌキよ」

「二人で!?」

「大富豪だって二人じゃ微妙じゃない。いいのよ、簡単なもので」


 彼女がトランプをり、お互いに配る。

 同じ数字のカードのペアを捨てていくと、最終的に四枚のカードが手札に残る。ナギには五枚。ジョーカーはナギの手にある。

 俺は慎重に、ナギの手札から一枚を抜き取った。




 大方の予想を裏切らず、俺は三連敗していた。

 そしてたった今、四連敗が確定した。


「なんでそんなに弱いのよ!」

「俺だって負けたいわけじゃないんだよ!」


 男なんて、そんなに重ねて服を着ない。上着は家に入ったときに脱いでいたし、上半身には服とインナーだけ。つまり今、上半身裸で、ルールにのっとり今まさに左足の靴下を脱いだ。これで両足裸足だ。


 もう後がない。次に負ければ、ズボンを脱ぎ、俺がパンツ姿をさらすことになる。パンツを見られること自体は別段どうということはないが、脱ぐ前提のナギより先にさらしてしまうのはばつが悪い。

 俺は正座で座り直す。


「しょうがないわね。負けたら脱ぐのはここまでにしましょ」


 ナギから、ルール改定の提案。


「次に負けた方は、私が決めた罰を受ける。どう?」


 後のない俺に拒否権などあろうはずもない。頷いて返すと、ナギがトランプを配りなおす。

 俺は流れを変えるため、オレンジジュースを口にした。





「勝った……!」


 俺は勝利を噛みしめた。

 罰ゲームの内容はまだわからないが、俺が不利になることは無いだろう。


「残念。負けちゃったわね」


 ナギは立ち上がり、テーブルを回って俺の隣にきた。


「罰ゲームを受けるわ」


 背筋を伸ばし、左手を腰にあてて言う。


「スカート、めくっていいわよ」

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