―――夢a

夢a-1

 シュバッ! ザクッ!


 剣を振る音に続いて肉を割く音が鳴る。目の前の獣型の化け物――コボルトが血を吹きだしてどうと倒れる。コボルトの死体は光に包まれ消えて、大きめの牙が目の前に2本残された。これで依頼は完了だ。俺は剣を鞘に納めると戦利品を拾い、腰の革袋に入れ、意気揚々と街に帰ることにした。少しかぶりをふり、浮かれた心を考え直す。ギルドに戦利品を納品するまで依頼は完了していない。家に帰るまでが遠足だなんて言葉を思い出した。


 街に着き、ひと際大きな建物を目指す。【青銅の蹄】と書かれた看板を見つけると、勢いよく扉をひらいた。 


「よう、タツヤ。依頼はうまく行ったかい?」


 立派な髭の恰幅のいいマスターは、慣れなれしくも楽しそうに声をかけてくる。もうこのやり取りもなれてきた。こちらも当然のように返す。


「ああ、コボルトの牙15本納品だ。報酬、色付けてくれよ」

「まったく、駆け出しのくせに生意気言いやがる。追加の報酬が欲しいんならせめて倍は持ってくるんだな」

「そんなに必要なのかよ! もうコボルトなんかにゃ負けないってのに!」

「おっと、2週間前傷だらけで死にそうなのを通りすがりの魔術師に助けてもらったのは誰だったかな?」


 うぐっ。それを言われると俺は黙ってしまう。

 しかし、この世界に来て自分はまだ半月程なのだ。あの時は突然、中世風のクロースを着ていきなり野外に放りだされ、何をしていいかわからず、拙いライトノベルの知識をあてに自分が無双出来ると勘違いしてしまい、あろうことかゴブリンの群れに向かっていってしまったのだ。結果は死ぬ寸前で圧倒的火力の女魔術師に助けてもらう羽目になったが、あの時の女性の憐れそうな顔つきと街まで女性にエスコートされてしまった屈辱は忘れられない。

 俺が苦虫を噛み潰しているような顔をしてると髭のマスターはそっとオレンジジュースを入れたジョッキを差し出し、笑いながら言った。


「しかし、あのひよっこがこの短期間にコボルト狩りまで出来るようになるとは大したもんだ。このジュースは奢りだ。まあ気楽にやんなよ」


 出されたオレンジジュースは若めだったのか、少し苦みがあるが酸味の強い味が疲れた体に行き渡った。一息つくとマスターに声をかけ報酬をもらう。今回の報酬は800オーロだ。確か、ジュースがジョッキで1杯2オーロ程度だから、今回は日本円で160000円程度だろうか。もっとも日本とは物価が違いすぎる物もあるから正確ではないが……。

 まだ駆け出しとはいえ、この額ではお目当ての新しい剣には届かない。それとも、今後を考えてこの薄いレザーアーマーをチェインメイルに買い換えるか? 確か財布には今、報酬の他に200オーロ程度あったはずだ。

 どういう理屈か解らないが、財布はどれほどオーロ銀貨をいれても一定までしか重くならず、かさばらない。流石はファンタジーの世界だからだろうか? まあ複雑なことを考えても仕方ない。




―――何せこれは夢なのだから―――

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