11 脱出と危機
夜が明けた。
「おい、行くぞ」
そう言ってセイルはドアノブに手をかける。
「……わかった」
リーレも立ち上がり、荷物を持つ。
二人はロビーでチェックアウトを済ませ、外に出た。
「うわあ……」
この日、吸血鬼リーレは初めてその朝日を目にすることとなった。
♰
朝のリュックザイテの街を、セイルとリーレは歩いて行く。
セイルは黒いコートを纏い、そのフードを被っている。見るからに怪しい。
対するリーレは灰色のフーデッドケープを身に着けているものの、フードまでは被っていない。
「……なんで私には怪しまれないようにって言ったのに、あなたはそんな恰好をするの?」
「俺は疑われてもあまり困らないし、念のためだ。深い意味はない」
ところで、なぜ吸血鬼である彼女が太陽の下で平然と歩いて居られるかというと、昨日の昼にセイルが調律した魔導具を両方起動しているからだ。それでは真っ暗になるのではないか、と思うだろう。しかし、実際にはリーレは普通に歩いている。
これはセイルがある魔法を行使しているからだ。光魔法を応用して、影の結界の外側には中にいるリーレの姿を映し、内側に外の景色を映している。吸血鬼の弱点は日光であるため、魔法の光に変換すれば大丈夫なのである。こうすることで外側からは普通の少女が歩いているように見え、リーレは肉体を焼かれることなく日中を過ごせる。ただし、これもまた常人ならざる所業であり、類稀なる使い手でなければ使うことなどできない。
セイルはそんな高度な技を使っている素振りすら見せずただ街を歩いて行く。
朝市があるため人は少なくない。大通りに入るとだいぶ人が多くなった。
北通りで行われている朝市にはいろいろなものがあり、リーレは目を奪われた。そのため、リーレは立ち止まり、セイルから目を離してしまった。
♰[セイル]♰
(リーレが……いない……?)
セイルがふと後ろを振り返ったとき、リーレはそこに居なかった。
(マズい……!)
そう思ったとき、
「少しいいかしら、冒険者さん?」
後ろから、聖騎士アリサがセイルに声をかけた。
♰[リーレ]♰
(……何、これ?)
朝市の商品を見ていたリーレは、ふと違和感を覚える。視界に歪みと欠落ができていた。
そこでリーレは思い出した。今の自分の視界はセイルによって作られていることを。そして気付く。自分の近くにセイルの姿がないことを。
(……不味い。外側の術まで歪んでいたら、結界が見えてしまう。早く見つけないと)
リーレはセイルを見つけるため、闇雲に前へ進む。
(……いた)
リーレ視界に見覚えのある黒いコートが映る。
「セイ―――」
黒いコートを纏う人物が、フードを取った。
その顔は、全くの別人であった。
(――ルじゃ、ない?……!)
視界が、真っ暗になった。
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