エピローグ

勝利の後に

 四人と四機は無事に研究所に帰還する。そして同日の夕方、NEOとエネルギー生命体との勝利を祝い、研究所の食堂でささやかなパーティーが開かれた。

 その場にはランド、ミラ、ウォーレンの三人も姿もあった。初め三人は食堂の隅で遠慮がちにしていたが、ソーヤとディーンに誘われて宴の輪に加わる。

 純真は英語ができなかったが、宴席でテンションの上がった研究所の職員たちにもみくちゃにされた。


「Hey, big boy! We'd been watching your courage!」

「You're a GREAT SAMURAI!」


 この場で言葉が通じるか通じないかは、些細な問題の様だ。嬉しそうな人々の顔を見て、純真も嬉しくなる。彼は通訳してもらえないかと、会場を見回して上木研究員を探した。しかし、彼女の姿は見当たらない。もう一人の英雄と言うべき、諫村の姿もまた。

 首を回して二人を探す純真に、研究所の職員が問いかける。


「Uh? Junma, who are you looking for?」

「A...ah...where is Kamiki?」


 純真が拙い英語で問うと、職員は笑って答えた。


「Huh? She has her circumstances, so-called a grown-up things」


 英語は分からずとも雰囲気で「何か事情がある」と察した純真は、それ以上は何も聞かなかった。将来の事を考えれば心配は尽きないが、今ばかりは全て忘れようと純真は喧騒に身を任せる。



 その頃……研究所の屋上で、上木新理と諫村忠志は二人きり、西に暮れる夕陽を眺めていた。

 上木は夕陽を見詰めながら諫村に問う。


「また地球を去って行くの?」

「ああ」


 涼しい夕風が二人の頬を撫でる。二人は互いの顔も見ないまま、ただ夕陽だけを見ている。


「寂しくない?」

「言っただろ、オレは諫村忠志のコピーなんだ。本体は今も遠い宇宙の彼方さ。この数週間、まあ楽しかったよ。この記憶を持って帰れば、彼の正気もまだ少しは持つだろう」


 上木は一度視線を落とした後、意を決して諫村に振り向いた。


「タダシ、私も……私も連れて行って」


 彼女の発言にも諫村は驚きもせず告げる。


「それはできない。諫村忠志が何のために地球を離れたのか、分からないか?」


 上木は何も言えなかった。瞳を潤ませる彼女に、諫村は淡々と続ける。


「哀れみも同情もいらない。ただ……彼の事を思うなら、彼が愛したものを守って欲しい。彼が愛したもの。これまでの生活、家族、友人、全て……」


 上木は苦笑いして、視線を逸らした。


「重過ぎるよ……」

「言い方が悪かったかな? 新理、オレの願いは一つだけだよ。幸せになってくれ。反省も後悔も、罪悪感も、君が不幸になるなら望まない」


 闇色に染まり行く空に、NEOの残骸の流星群が輝く。諫村は静かに天を仰いだ。

 願い星よ、叶え星よ、彼の願いを叶えたまえ。



 翌日、純真たち三人の適合者は、体内に宿っているエネルギー生命体を諫村に取り除いてもらう。

 三人は治療室に送られ、電気毛布を体に巻かれてベッドの上に寝かされた。諫村は最初に純真の横に来て、そっと右手を取る。


「国立、これからエネルギー生命体を抜き取る。気をしっかり持つんだぞ」

「はい」


 純真は緊張しながら、彼の右手を握り返した。瞬間、右手に体中の熱が移動して、猛烈な悪寒に襲われる。


「うぅ、さ、寒い……」


 純真は小刻みに体を震わせ、歯を打ち鳴らした。電気毛布の熱でも、温まるには全く足りない。極寒の地に放り出された様な寒気が続く。


「寒い、寒い、寒い」


 熱が諫村に奪われて行く。どれだけ強く純真が諫村の手を握り返しても、熱を奪い返せない。徐々に腕の感覚が無くなり、力が入っているかも分からなくなる。急に心細くなって、不安と恐怖に襲われる。貧血になった様に、頭の中がくらくらして思考が定まらない。室内で毛布に包まっているのに、体が芯から冷えて行く……。

 そして純真は気絶した。

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