サンディエゴでの戦い

 純真とソーヤはサイパン島のEB研究所に帰還し、ロサンゼルスでの戦いの全容を報告した。

 NEOが「人間」を攻撃したという事実の理解に、エネルギー生命体の研究者たちは苦しんでいた。それがウォーレンの仕業でもなく、NEO自身の判断だというのだから尚の事。どうしても日本の悪意を邪推せざるを得ない状況だったが、日本人である純真を動揺させないために、それが確定するまでは表立った言及は避けられた。

 今後もNEOは地上への攻撃を続ける可能性が高い。NEOの性能を考えれば、今後の防衛は苦しくなる一方だろう。


 純真とソーヤの二人は新たなNEO討伐隊に正式に任命され、最終決戦は二週間後だと宣告された。



 決戦までの二週間に敵襲があった場合に備え、急場の凌ぎにビーバスター五号機と六号機には新たな武装が追加された。対エネルギー生命体用の冷凍砲、冷凍砲を防ぐ断熱シールド、高熱伝導率のアージェントランス、そして機動力向上のためのスラスター強化と追加ブースター。これらの装備により五号機と六号機も、武装では離反したビーバスターと互角になった。

 更に二週間後の決戦では、NEOの未来予測能力を超越する新たな機体を投入する予定である。まさにアメリカ。世界中がNEOの活動で苦境に立たされている中で、ここまで惜しみなく全力を注げるのは大国ならでは。



 決戦の一週間前、再びNEOはアメリカを襲撃する。またしても襲撃地点はカリフォルニア州、今度はサンディエゴ。

 防衛に出動した純真とソーヤを、またしても四機のビーバスターが妨害する。


「ウォーレン、またお前か!」

「ああ、全ては計算通りだ。アメリカ本土を攻撃すれば、必ず研究所の人間はお前を差し向ける」


 純真の呼びかけに、ウォーレンは平然と答えた。

 嘲笑の混じった彼の口振りに純真は激しい怒りを覚えるも、前回の様に追い回す事はしない。彼の心の動きを読み取って、ソーヤが念のために呼びかける。


「純真、冷静に」

「分かってる。大丈夫だ」


 年下に心配されるとは情けないと思いつつも、純真は目の前の事に集中する。


 前回の出撃から帰還後に、純真は上木研究員から「軍事行動」におけるレクチャーを受けた。軍事行動は戦闘とイコールではない。作戦中は常に「目的」を意識しなければならない。安易に敵の挑発に乗って、本来の目的を忘れてはいけない。

 前回の戦闘で言えば、目的はロサンゼルスの防衛であり、討伐隊の撃墜ではなかった。故に純真はウォーレンを追い回すのではなく、まず爆撃を繰り返す雷山を止めに動くべきだった。当然ウォーレンは妨害するだろうが、その時は雷山を守る動きを逆手に取れば良い。

 同じ失敗を続ける訳にはいかない。純真はソーヤと連携して、雷山を撃墜しにかかる。


 雷山の機動力はビーバスターを遥かに上回っている。無人機の高機動力に加えて、搭載しているAIはNEOが作成したもの。未来予測能力までは持たないが、今日までの純真とソーヤの行動パターンはインプット済み。単純な追いかけっこでは、純真もソーヤも雷山には敵わない。

 だが、純真にはエネルギー吸収フィールドがある。雷山の動力はエルコンなので、エネルギー吸収フィールドに捉えれば、動きが鈍る。


 四機のビーバスターを無視して、雷山を追い始めた純真をウォーレンが追う。


「少しは賢くなった様だな。前回のざまと言ったらなかったぞ」


 彼の挑発に純真は耳を貸さない。徹底して無視を決め込む。

 ウォーレンは鼻で笑い、彼の乗る六号機に冷凍砲の照準を定めた。そこへ横からソーヤの乗る五号機が割り込んで射線を遮る。一号機が発射した冷凍砲は、彼女のシールドに阻まれた。


 ウォーレンは舌打ちしてディーンに呼びかける。


「Dean, what were you doing! Keep your eyes on her! That's on your responsibility, do you understand!?」


 ソーヤを止めるのはディーンの役割だった。誰に命令された訳でもなく、彼が自らその役割を買って出たものだ。


「Yes! I'm sorry!」

「You are lax with her. Should I do that instead of you?」

「No, I'll do! Let me do it alone!」

「Yeah...don't fail me again」

「Yes, I never」


 ディーンは勇ましく返事をしてソーヤの乗る五号機を追ったが、ウォーレンは彼の心の迷いを読み取って信用しなかった。ソーヤを追うディーンを見送り、ウォーレンはランドとミラに告げる。


「Land, Mira, you two shoot Soya down」


 ランドは眉を顰めて問い返した。


「Are you sure?」

「He won't harm her」

「I guess too, but even...」

「Land, Soya is no longer our fellow team members」

「That's true...right...」

「You good?」

「I understand. Not willing, though」

「Whether to do or not?」

「Do, I'm in. You are right and I obey」


 元仲間を撃つのに抵抗はあったが、結局彼はウォーレンに従う。ミラもランドに続いて答えた。


「Warren, me too. We two understand. Land, get it done」

「O.K.」


 ビーバスター三号機と四号機は、ソーヤの乗る五号機を撃墜しに向かう。

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