適合者たちの戦い

 四機のビーバスターが海底から発進した後、純真は上木研究員に尋ねた。


「ロボットの戦いは見ないんですか?」

「興味がありますか?」

「当たり前じゃないですか。負けたらサイパンが大変な事になるんでしょう?」

「それじゃあコントロールルームに行きましょう」


 彼女に連れられ、純真は格納庫の更に地下にあるコントロールルームに向かう。



 コントロールルームでは多くの人が忙しなく歩き回っていた。白衣を着た研究者らしき者たちの中に、スーツ姿の者も多く見られる。

 地上の状況を映しているモニターは室内のそこかしこにあり、どれに注目するべきか純真は迷った。室内で交わされている言葉は当然英語で、純真には訳の分からない呪文の様にしか聞こえない。


「純真くんは、ここで待っていてください。その辺の物に勝手に触ったらダメですからね!」


 上木研究員は一言忠告して、コントロールルームの中央にあるジオラマ模型の様なものが置かれた台に近付き、その側にいた老年の男性と英語で二言、三言、言葉を交わした。

 その後、彼女は純真の元に戻ると、彼を連れて再び中央の台に移動する。純真は間近で見て初めて、台の上にあるものが模型ではなく、立体モニターだという事に気付いた。

 そこには研究所周辺の立体地図が投影されており、四機のビーバスターと幾つもの球体が地図上に浮かんでいる。球体の方は純真が所沢市で見たものと同じだ。


「この球体は……」


 そう言って、純真が身を乗り出そうと台に手をかけようとすると、上木研究員が慌てて止める。


「待ったー!!」

「えっ」


 急に強い力で抱き留められたので、純真は何事かと焦った。

 上木研究員は息を荒くして言う。


「純真くん! あなたはエネルギーを吸い取る体質になっているんですよ!」

「あっ……す、すみません」

「気を付けてください、本当に」


 コントロールルーム中の大人たちが上木研究員の声に驚き、振り向いて二人の様子を見る。ある者はあっけに取られ、ある者はささやかな笑みを浮かべている。

 純真は注目されて恥ずかしかったが、上木研究員は気にせず話を始めた。


「戦況はこちらが有利です。敵はこちらに有効な攻撃手段を持っていません」


 立体モニターの上では数センチメートルの小さなビーバスターが、より小さな球体を追い回して捕獲している。戦闘と言うよりは、逃げるボールを捕まえるスポーツ競技の様だ。ビーバスターに捕まった球体は、死んだ様にゴトリと地面に落ちて動かなくなる。

 球体の方はただ空中に浮かんでいるだけで、ビーバスターが接近すると逃げようとはするが、そう動きが早い訳でもなく無抵抗にキャッチされる。攻撃する素振りは一向に見られない。

 純真は素直な疑問を口にした。


「この小さな球体の何が脅威なんですか?」

「これを見ただけでは、そう思うかも知れませんが……エネルギー生命体の宿った物は適合者が乗るロボット、ビーバスターでしか退治できないのです。既存の兵器は全く通用しません。それに今は拙い戦い方しかできなくとも、NEOは学習して次には新たな戦法で攻めてくるでしょう」


 上木研究員の解説を聞いて、純真は更に尋ねる。


「NEOには本体とかって無いんですか?」

「あります」

「それを叩けば――」

「本体は宇宙空間、衛星軌道上ですよ。今は適合者に訓練をさせて、ビーバスターを宇宙に上げる準備をしているところです。心配しなくても、近い内に作戦は実行されます」

「……成功するんですか?」

「させなければ、私たちに未来はありません」


 彼女は終始真顔だった。



 間もなく四機のビーバスターは襲撃して来たNEOの撃退に成功する。

 最終的にビーバスターはNEOの子機の半数を撃墜したが、残りの半数には逃げられた。しかし、深追いは禁物という事で、全機研究所に帰還する。


 適合者である純真はビーバスターの戦いを見ている内に、自分にも何かできる事はないかと考える様になっていた。研究所の適合者五人の内四人は、純真より幼い子供である。子供にできるなら自分にもという思いが、彼の中にあった。

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