第10話

 私は……どうしてもウェンリー王子と一緒にいたかった。

 一目惚れだった。あれほど美しい人はいないと思った。


 なのに――ウェンリー王子の隣には、いつもあいつがいた。

 アルフェアだ。


 あいつは何をやっても私の上を行く。最悪の奴だった。 

 座学でも、剣術でも、魔法でも……私は何一つ奴に勝てなかった。


 常に二位だった。

 ……まともにやっても勝てないと思った私は、奴を蹴落とすことを考えていた。


 ……やるとするなら、盛大に――。

 そう思った私が真っ先に思いついたのは、契約の儀だった。


 契約の儀で、どうにかアルフェアが失敗すれば……その時点で婚約破棄されるのではないかと考えた。


 私の計画は数年かけて行われた。まずは、ランクの低い精霊を無理やり召喚させる方法を……しかしそれは難しいから、ならば別の手段を……。


 そうして私は少しずつ、契約の儀について調べていき――ある研究結果を見た。

 それは、精霊を召喚する魔法陣についてだった。あの魔法陣は人間では決して弄ることができず、大精霊であるフェンリルしか操作できなかった。


 だから、壊れてしまった場合はフェンリルに祈りを捧げ、修正してもらう必要があった。

 ――そう、壊れることがあるのだ。


 私はそこに目をつけた。……周囲に気づかれない程度に、壊すことができれば、召喚に失敗する。

 そこで、適当な理由をつければ……狂乱した周りも協力して、アルフェアを追い込むことができるのではないか?


 そう考え、私はその方法を見つけ出し、私が召喚を終えた段階で魔法陣を破壊した。

 そして、清らかな乙女ではない、と言い張ることによって、彼女を追い込んだ。

 ……作戦は、笑ってしまいそうになるくらい成功した。


 裁判だってそうだ。裁判長に金を握らせ、適当な男に金を渡して、関係を持った男を演じてもらった。

 ……それらもすべて成功した。

 

 その結果……私は今、ウェンリー王子の隣にいられた。



 〇



「ウェンリー王子。気分はどうですか?」


 隣で眠るウェンリー王子に近づくと、彼は額に手をやっていた。


「……最悪だね。また嫌な夢を見たよ。あの汚い女と夜を共にする、ね」

「それは悪夢ですね」


 くすり、と私は笑う。ウェンリー王子は何度もうなずき、アルフェアを馬鹿にしていく。


「よく考えれば、あの女は確かに怪しいと思っていたんだ」

「ええ、さすがウェンリー王子ですわ」

「だろう? ただ、キミのおかげでもある。あの女の本性を暴いてくれたんだからな」


 ウェンリー王子がそういって、こちらへと顔を向けてきた。


「改めてありがとうリンダ。キミがいなければオレはあの女に騙されていたところだ」


 ウェンリー王子は単純で可愛い人だ。誰かが善といったものを、善と言ってくれる。

 悪と決めたものを、悪と断定してくれる。……その無邪気さが、私は大好きだった。


「本当に良かったですわ。アルフェアがあなたに何かする前で」

「……ああ。だから――オレの記憶を全部、キミで塗り替えてくれないか?」

「もちろんですわ」


 そういって私はウェンリー王子にそっと抱きついた。ウェンリー王子は嬉しそうな笑みとともに私を受け入れてくれた。


 私は今はもういない、アルフェアを思いながら、心中でこうつぶやいた。


 ざまぁ、ないわ、と。


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