30分だけ僕は他人を支配する

第1話 恋愛サポート 岬と正樹の場合

「ねえ、私を見て」


岬は僕の顎に手を添えると顔を寄せてくる

絡み合う僕と岬の視線

そして僕を見つめる岬の視線には情欲が浮かぶ


「ねえ、正樹、なんで貴方は落ち着いているの

私が見つめてるのに」


それは、僕が正樹じゃないからさ

でも、そんな事は言えない


「そうかあ、ドキドキだぞ」


代わりにそう言って岬の頬を手で優しく撫でてやる


「キャン」


すると、僕の触れた手に感じたのか、岬が小さな声を上げる


「ねえ、今日の正樹、凄いんですけど

私がこんなにドキドキしているのだから正樹も私に夢中になるべきよ」


だから、僕は正樹じゃないんだってば

まあ、言えないけどね


言葉で多くを語れない僕は自分の唇で岬の口を塞ぐ


「むうう、ううう」


「クチュ、クチュ」


突然の口づけに岬は驚くが、僕の舌が岬の中に入ると大人しくなる


「クチュ、クチュ」


二人の舌が絡み合う音、それだけが聞こえる世界だ


「プチュン」


二人の口が離れるが細い涎の糸が二人をまだ繋いでいる


「はっ、はっ、はっ」


荒い呼吸を続ける岬、その呼吸に合わせて揺れる胸が悩ましい

そんな僕の視線に岬は気づいたのだろう


「はっ、はっ、ねえ、正樹ったらどこを見ているの」


悪戯っぽい瞳で僕を見ながら尋ねる岬

……違うな挑発だ


「どこって、知ってるんだろう、岬の胸は男の視線を引き寄せるって」


僕がそう言うと岬は少しふて腐れる


「ねえ、正樹は嫌じゃないの、私の胸を男達がジロジロと見るんだよ」


そう言われてもねえ、岬の揺れる胸から目を逸らせる男はそうはいないだろう


「男の視線ぐらいじゃ嫉妬はしないさ」


「ええっ、なんでよ、酷くない」


拗ねる岬、正樹が独占欲を発揮して怒ることを期待してたんだろうな


「だって、岬は僕の物だろう、だから当然岬のおっぱいも僕の物

そう考えれば、岬を見るしか出来ない男達は僕のおっぱいを羨んで指をくわえてるだけ、そうは思わないかい」


岬の耳元でそう囁いてやる

僕の声に、僕の吐息に、僕の者として従属する悦びに、岬が感じるのが判る


「だから、岬、キスをして」


「う〜ん、そのダカラは意味不明だよ」


「ちゅ、ちゅ、ちゅううう」


言葉とは裏腹にそう言われたのが嬉しいのだろう、岬は僕に何度もキスをする


「で、分かったかな」


「ええっと、なにが?」


可愛らしく小首を傾げる岬


「と・ぼ・け・な・い、美咲が僕の物ってことだよ」


「えええええ、岬は正樹のものなわけ?」


なに、その嬉しそうな声、岬に尻尾があったらブンブンと振ってるよね


「そうだよ、このおっぱいもね」


そう言って、僕は岬のおっぱいに手を添える


ザザザザザザ


そんな音が聞こえた気がした


視界がブラックアウトする


ああ、30分経ったんだ


僕、田中和樹は自分が教室の机に突っ伏している事に気づくのだ

さっきまで、校舎の屋上の影で岬とイチャイチャしていた感触は僕の手に、目に、耳に、唇に残っている


でもそれは正樹を通して手に入れたもの

もう僕は正樹から切り離されてしまった

後は正樹本人がどこまで頑張るかだ


それにしても正樹には感謝して欲しい物だ

岬に告白して付き合える様になったのに、手も握れないチキンだった正樹

そんな正樹が昼休みに岬を屋上に呼び出すと、岬にキスしただけでなく胸まで触れたんだ

素晴らしい成果だよね


そんな事を考えながらボーッとしていると昼休みが終わり5時間目の授業が始まる

そして、振動する僕のスマホ

そっと覗き込むとメッセージが1通

正樹からだ


岬とキスをした

岬の胸に触れることができた

岬が僕の物だと熱く語った


そんな事が書かれている

そして、全部僕のおかげだと

僕が掛けた暗示が功を奏して岬に積極的になれた、ありがとうと


正樹は気づいていない

僕は正樹に暗示を掛けた訳じゃない

正樹と感覚共有をして僕が主動で岬にアプローチしたんだ


ぶっちゃけ、僕が正樹の身体を乗っ取って岬とイチャイチャしただけなんだけどね

だから、岬の柔らかな唇の感触も、岬と交換しあった唾液の味も、岬の胸の感触も全部僕の物でもあるんだ

まあ、ブラジャー越しに触った胸の感触とかあんまり意味は無いけどね


それに正樹が書いて寄越したのは全部感覚共有して僕が主体だった時に行った事だ

折角岬の胸に手を添えるところまでお膳立てしたのに

僕との感覚共有が切れた後少しは自力で頑張ったんだろうか

多分何もできてないんだろうな


僕のクライアントは大概がそんな感じ

僕としてはその方がありがたいんだけどね


だって、自分で出来ると自信がつけばもう僕には依頼しなくなる

でも、自分では何も出来ずに僕に暗示を掛けてもらうときだけ上手く行く

そうなれば何度も僕に依頼をくれる良いお客さんだ


自分の彼女が僕に遊ばれているとも気付かずにお金と感謝をくれる

有難いお客さんになってくれるって寸法さ


神様が気まぐれにくれた僕の能力

30分だけの自分が主体で他人と感覚共有する能力

それを使って僕は他人の彼女と遊ぶ事が出来る


神様、ありがとう、僕に素晴らしい能力をくれて

最初は戸惑ったけどね

今では本当に感謝してるんですよ


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る