助けた女子はモデルをしている年上で、俺の家に上がり込んで迫ってくる

粋(スイ)

本編

第1話 初対面

 学校が終わり凛がバイト先がある駅ビルへと向かっていると、揉めている人たちを見かけた。

 一人の女子に、男子三人が詰め寄っている。

 女子の向こう側に見える男子は、凛と同じ高校の制服を着ていた。

 同じ高校の複数の男子が、一人でいる女子に詰め寄る光景はあまり気持ちのいいものではないだろう。


 凛がバイト先に向かうには、彼らの横を通らなければならない。

 つまり、同じ制服を着ている凛が、明らかに目に入っている状況で見て見ぬ振りをするということだ。


 周囲の行き交う人達は、遠目に彼らを見て去っていく。

 誰も彼も見て見ぬ振りだが、そんな彼らはまったくの赤の他人。


 だが凛は同じ制服を着てしまっていることで、まったくの赤の他人とは言えない気持ちになってしまっていた。

 三人の男子を見る限り、一人も知り合いはいなかったのだが……。 



「どうかしたんですか?」



 嫌々声をかける凛。凛の正直な気持ちはちょっとした内輪揉めで、話しかける必要がなかったという結果を期待していた。

 だがそう都合良くはいかない。



「さっきから断ってるのに、しつこいの」



 女子はそう言うと凛のうしろに回り、ブレザーの背中部分を両手で握った。

 そして凛には、女子に詰め寄っていた男子三人の妬むような視線が向けられる。


 本当なら凛もそしらぬ振りで通り過ぎたいところだったのに、同じ制服を着ているという共通点が後ろめたい気持ちにさせていた。

 なんでよりによって同じ高校なんだよ……と凛は心の中で悪態をついた。



「お前、仲里さんのなんなんだよ!」


「なんでもないですよ。ただの通りすがりです」


「な、ならどっか行けよ」



 人に絡むくらいなので、関わり合いになりたくないような人達かと凛は考えていたのだが、思っていたよりも短絡的なことはなさそうだった。

 むしろ若干戸惑っているようにさえ感じられる。



「その仲里さんは断ったって言っているみたいですけど? ナンパでもしていたんですか?

 それならお断りされたんですから、諦めたほうがいいですよ」


「お前には関係ないだろ」


「そうは言われてもあんたたち同じ学校みたいだし、同じ制服着てて見て見ぬ振りっていうのも」


「俺たちは仲里さんと話してるんだから、放っておいてくれよ」



 凛は困り果て、うしろにいる女子に答えを求めることにする。



「仲里さん? これじゃずっと離してもらえなさそうですし、学校に苦情入れるか警察に相談したほうが早いと思いますけど?」



 凛の言葉を聞いた四人は、みんな同じような顔をして見てくる。

 凛としては早くこの場から開放されたかったので、手っ取り早くこの場を収める方法を言ってみただけなのだが、特に男子三人は目に見えて動揺していた。



「自分の通っている学校に苦情入れるの? なんか変じゃない?」



 彼女の言葉から、仲里さんも同じ高校だというのがわかる。

 凛は別に変だとは思わなかったが、それなら警察でもいいのではないかと思った。

 凛にしてみれば、この場が収まるのであればなんでもいいのだ。



「じゃぁ警察に相談してみては?」


「ちょっと喋りたかっただけなのになんだよ」


「話しかけただけで警察とか、ファンをなんだと思ってるんだよ」



 凛が仲里さんと話している間に、男子たちがブツブツ捨て台詞のような言葉を口にしながら離れていった。



「なんか行っちゃいましたね?」


「どうもありがとう。あの人たちがお茶しようってしつこかったの」


「そうだったんですか。災難でしたね。じゃぁ、俺はこれで行きますね」


「え? ちょっと待って!」


「ん? なんですか?」



 この場も収まったので凛が離れようとすると、仲里さんが不思議そうな顔で凛を引き止めた。

 凛は五時からバイトに入っているのですぐにでも向かいたいところだったのだが、呼び止められたのを無視するわけにもいかず、しかたなく応える。



「あの、私のこと知らない?」


「もしかしてナンパですか? なわけないか。会ったことありましたっけ?」


「いえ、会ったことは、ないけど……名前、教えて?」


「倉敷 凛です」


「男子で凛って珍しいね?」


「そうですね。それじゃ申し訳ないですけど、このあとバイトなんで行きますね」



 凛はバイトの時間が迫っていたこともあり、話を切り上げてその場をあとにした。

 時間に余裕があるのなら、もう少しお喋りをしてみたいという気持ちがなかったわけではない。

 どちらかと言えば綺麗な顔立ちと言えるが、可愛らしさが感じられる雰囲気があり、ちょっと高校生にしては発育が良すぎるプロポーション。

 話を切り上げなければいけなかったことを少し残念に思っていた凛だったが、次の日学校へ行くと仲里さんが教室の前に来ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る