Sキャラ神崎くんは今日も小悪魔後輩を攻略する

午前の緑茶

第1話 小悪魔後輩と付き合ったので、仕返しを始めることにした

ーーーー目の前には1人の女の子が立っていた。


 くりくりとした愛らしい瞳に筋の通った綺麗な鼻筋。ぷるんと熟れた果実のような赤い唇。白く透き通るような綺麗な肌。そして見惚れほど艶やかで煌めく美しい黒髪。


 見れば見るほど可愛く、心臓がきゅっと締め付けられる。

 俺と見つめあって立っているのは俺が好意を寄せている人、雨宮えりだ。俺の大事な人。守りたかった人。何度も助けてくれた人。時々が話すのが楽しい心休まる人。


 とうとう告白をする決心をしたので、こうやって体育祭の終わりに彼女と向かい合っていた。

 昼間はじりじりと焼きつくような暑い日照りであったが、夕方なこともあって少しだけ涼しい風が肌を撫でて通っていく。

 沈黙を和らげるような柔らかく包み込むような風だった。


 やっと伝えることができる。長く待たせてしまった。自分の気持ちに気付くのにこんなに時間がかかるなんて。それでもずっと待ってくれたえりには感謝しかない。


「なあ、えり」


「な、なんですか?」


 夏の日差しの火照りが残っているのか頰を朱に染めて、ちらっと上目遣いにこちらを見てくる。くりくりとした愛らしい瞳と目が合った。

 ドキッと甘い痛みが胸に走る。どうやらこんな何気ない仕草でさえ可愛いと思えるほどえりのことが好きならしい。

 思えば思い返すほど彼女との思い出ばかりだ。積もり積もった想い、ずっと待っていてくれたことへの感謝、そしてこれからへの決意を込めて言葉を吐き出した。


「……俺、えりのことが好きだ」


「……え?」


 俺の言葉を聞くと目を丸くして固まる。くりくりとした愛らしい瞳が大きく見開かれる。きょとんと信じられないことに出会したかのように間抜けな顔を晒した。

 よほど意外だったのだろう。確かに自分がえりのことを好きだと気付くのに時間がかかってしまった。

 これまでえりのことが好きだと認めることが出来ず目を背けてきた。だがこれからはもう自分の気持ちから逃げない。きちんと向かい合う。そう決めたのだ。


「え?え!?うそ……信じられません……」


 だんだん俺の言葉を理解し始めたのか、小さな声で上擦らせてポツリと呟く。感極まったように口を両手で隠し、目を潤ませて目尻に涙を溜め始める。


「うそじゃねえよ。えりのことが好きなんだ。ずいぶんと待たせちまったけど」


「い、いえ、先輩が嘘をつくような人ではないことは分かっているのですが……嬉しすぎて信じらないと言いますか……」


 慌てたように否定すると、体を俺から背けてしまった。

 耳を真っ赤に染めて、「え、うそ!?先輩が私のこと好き!?これ、夢じゃないですよね……?」と小さな声でぶつぶつと呟いているのが背中越しに聞こえてくる。

 聞こえないようにしているつもりなのだろうが丸聞こえだ。なんだか勝手に人の本音を聞いているようで悪い気がしてくる。


 一息つくと落ち着いたのか、ゆっくりとまたこっちを向いた。まだ顔は赤いままだが。


「……そ、そのどうして好きになってくれたんですか?」


 恥ずかしそうに目を伏せて、さらに頰を色づかせた。


「いつから好きになったのは分からないが……。えりの無邪気に遠慮なく関わってくるところには救われる部分があったし、なんだかんだこんな俺に何度も話しかけてくれて、俺を変えてくれたことが1番の好きになった理由かな」


「へ、へぇ」


 一生懸命に表情を引き締めようとしているが、によによと口元が緩んでいる。えへへ、と照れ笑いしている姿は愛らしく、なんだか抱きしめたくなってくる。


「なによりえりの笑顔が1番好きだな。笑っている姿は見ていて癒されるし安心するし。いつでも笑いかけてくれて、それで好きだって自覚したんだ」


「も、もう!先輩は嬉しいことを言い過ぎです!」


 嬉しそうにはにかんで恥ずかしがるえりの姿は、見ていて楽しくなる。必死に顔を隠しているが照れているのは丸わかりだ。


「その……ずっと待たせて悪かったな」


「……はい」


 俺の雰囲気を感じ取ったのか、頰を染めたまま覚悟を決めたように真剣な表情で見つめてきた。

 

「……えり、好きだ。付き合ってくれるか?」


「はい、もちろんです!」


 ぱぁっと華が舞うような満面の笑みを浮かべて了承してくれた。見惚れるような眩しい柔らかい笑顔に思わず胸がドキリと鳴る。

 こうして俺の好きな人は俺の彼女になった。


 ーーーー好きな人が彼女になる、それはとでも嬉しいことなのだが……ここで一つ、えりには欠点がある。


「ふふふ、せ〜んぱい?付き合ったからには色々出来ますね?い・ろ・い・ろ 」


 クスッと色っぽく微笑んで、俺の瞳の奥を覗き込むように上目遣いに見つめてくる。いたずらっぽく目を細め小悪魔的に笑うえりは、甘くてどこか少し刺激的な声で囁いてきた。


 不覚にもドキッとし、少しだけ頰に熱が篭り始めるのを感じる。くそ、またやられてしまった。


 そう、こいつはいつも俺のことをからかってこようとするのだ。これまでも何度もこうしてからかってきて俺を照らさせようとしてきた。何度も何度も。

 ことあるごとにからかってくるのである程度耐性は出来たが、それでもこうして不意にやられるとやはりドキッとしてしまう。


 このからかいは良い意味でも悪い意味でもうざい。

 別にからかわれること自体は嫌ではないのだが、からかいを終えた後の『してやったり』みたいなえりのドヤ顔が腹立つ。これは何度見てもやはり腹立つ。

 なのでこれまではずっとスルーしてきたが、付き合ったことを機に今度からは仕返しをしてやるとしよう。


 今回、俺が考えた仕返しは逆にからかい返してやる方法だ。こいつはいつも自分しかからかっていないので、逆にからかわれるなんて思ってない。その隙をつけば、確実にこいつは照れるはずだ。


(くくく、俺が照れると思って油断してやがるな。返り討ちにしてくれる!)


「へぇ〜?そんなこと期待してたんだ?えりは変態だな」


「え?え!?ち、違いますよ!わ、私そんなに期待してませんから!」


 にやりと笑ってそう言い返すと、焦ったように声を上擦らせて否定してくる。ぼわぁっと顔を一気に真っ赤に染めて、なんとか否定しようと両手をわちゃわちゃと動かす姿からも焦り具合がよく伝わってきた。


(くくく、俺をからかってくるからそうなるんだ。少しは反省するんだな)


 仕返しを成功したことに満足して、心の中でほくそ笑んだ。

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