魔法使いが犯人みたいです。『魔力0探偵の趣味推理』

アリエッティ

1話 意図的な魔法

 物語の始めというのは大胆に出来てる。そうしないと誰も興味を持たない


 「被害者は男、この家の長男。」


だからいきなり死体が登場するけど、どうかご了承くださいませ..。


「部屋の窓には焼け焦げた後、被害者の腹部にも同様の痕跡が付着。」


「間違いない、フレイムを撃たれた事での焼死だ。直ぐに犯人の目星を付けろ、被害者の周囲を探るんだ。」


「本当にそうですか?」「何者だ?」

僕は一応探偵ってのをやっている。


「バリー・キャスリン、探偵ですよ」

特許取ってないから自称なんだけど。


「バリーキャスリン..。

女みたいな名前だなっ!」


「..放っておいて下さい。そんな事より本当に死因は魔術師によるフレイムでしょうか?」


「それしかないだろう、こうして証拠が出ている。焦げたガラス、燃える服他に何があるというのだ。」

フレイムは下級魔法ではあるが熟練されれば人を殺める程に威力を増す。


「しかしおかしいのです。」


「何がだ?」


「フレイムというのは加減の段階があり、コンロでいう処の弱火・中火・強火の三種類に分けられます。被害から見てフレイムの威力はどう見ても弱火ですが、弱火では人を殺める程の威力は無いのです。」

 六畳とみられる部屋で最大級を撃てば全体が燃え上がり、家全体に小火が広がる。仮に中火であったとしても焦げた後では済まないだろう。


「ガラスは割れていませんよね?」


「ああ、ヒビが入っているだけだ。」

中火ではない。中火なら、確実に割れて穴が開いている。


「ならば死因は別にあるという事か」


「かもしれません。

詳しく調査する必要があります」


「死亡時の家の状況、周囲の関連や被害者の評判、もう一度探ってみる。」


「ええ、僕も独自に調査を進めます」

 僕は一度現場の家を出て詳しく調べる事にした。身元や近辺は任せるとして、調査するのは反抗手口に値する手段。可能性として使用される見込みのある魔法、アイテムを組み合わせて使用する。僕はこれを「クエスト」と呼んでいたりする。


「...うん

やっぱりフレイムじゃないな。」


「そうね。この術だと小さな部屋では被害が多すぎる、ナンセンスよ」


 特別魔術講義学校

魔法の使えない僕にとっては貴重な情報源であり実践場。凄く重宝している


「小にしても威力は足りない?」


「威力どころか、軌道がそぐわない」


「軌道?」


「そう、フレイムの大・中・小っていうのは威力もそうだけど扱いも変わってくるの。」


「具体的にどんな」


「徐々に良くなっていくのよ。」


小は威力が低く動きが覚束ない為、標的を軽く殴る感覚で当てる。

中は比較的凡用性が高いが致命傷を与えるには威力が不足形がち。

大は威力がかなり高く的確にヒットさせる事が可能だが周囲に及ぼす被害が尋常でなく範囲的な攻撃に向いている


「犯人は被害者を狙って更に奥の窓にまで火を当てたのよね?」


「そうだね、被害者がその場に立っていたとすると丁度真っ直ぐ。」


「それって心臓を的確に狙って炎を貫通させたって事よ。小じゃ無理だし、講師の私が工夫して撃っても難しい」

フレイムの小は威力だけでなく凡用性も低い。尚且つ扱いが難しい。


「やはりフレイムではないのか..?」


「..手掛かりになるかわからないけど、以前アイテムショップで面白い道具を見つけたわ。」


「アイテム?」「今住所書くね」


行き詰まり、頭を悩ませているとき、こうした無意味がヒントになり得る。


「はい、これ」


「魔法雑貨商人のアトリエ..ありがとうバイラル、参考にするよ。」


「うん、役に立てばいいけどね」


「いつでも立っているよ、君は。」


「え、そう..かな。

だったら凄く、嬉しい...かな?」


可能性となる手段があるなら手を伸ばす。どちらにせよ自分の知識や手段でないなら確認し、試すしかないしな。


「真実に近付けばいいが..」


フォトン家の屋敷

 現場となった家の中では警察が調査を続けていた。聞き込みに応じたのは被害者である一家の長男クリソンの父ベンソン、その妻でクリソンの母リス更に妹のライム、そして屋敷に訪問していた友人のモーリーの四名。


「刑事のハーパーです。

では早速ですが、事件発生時はどうお過ごしでしたか?」


「私は、居間で日課の錬金術をしておりました。最近体の調子が悪くて、少し長く行っていましたかね。」


「僕は、その横で本を読んでいました

丁度朝の9時頃からお昼に掛けては読書をするようにしているんです。」


 事件時の様子を母親から、一人ずつ聞き込みをはじめる。死亡推定時刻が昼の12時頃、死後の経過を見ると犯行に及んだのは二時間前の10時とされている。その間両親は居間でくつろいでいたとなれば一応のアリバイはある。


「君は、何をしていた?」


「..何してたっていいでしょ、オジさんに関係ある?」


「ライム、ちゃんと答えなさい。」


「いいんです、年頃の娘さんにモラルの無い質問でしたね。すみません」


「...謝るなよ気持ち悪いっ!

部屋で寝てたよ、もういいでしょ。」


「そうか、有難う。」

 言葉巧みな誘導じゃない、不適切を謝罪して自然と溢れた親切だ。騙すつもりなど断じてない、自然の摂理だ。


「君は..友人だよね。

被害者と会う予定があった?」


「はい、日頃から仲良くさせていただいでいてよく家にも上がらせて貰っていました。」


「本当ですか?」


「..はい。

モーリー君はうちの息子の親友で、小さい頃から仲が良いんです」


「本当に良い子でね、私達も彼が凄く好きなのですよ?」


「いえ、そんな。

こちらこそお世話になってますよ」


「……。」

朗らかな家族に気の良い友人、周囲には然程問題は無さそうだ。理由の無い衝動的な犯行なのだろうか、だとすれば外部の侵入者や変質者による殺害。


「ご協力有難うございました。

少しだけ、現場の部屋を再度物色しても宜しいでしょうか?」


「構いませんよ。な、リス?」


「ええ、しっかりとお調べになって」


「助かります。」

 とは言ったものの、今更何か見つかるだろうか。お茶を濁し、無駄に時間を誤魔化す作業が続きそうだ。


「あの..さ。」「君は..ライムさん?」


血の匂いの残る部屋に片足を踏み込んだとき、被害者の妹が背後で声を掛けてきた。


「余り、好ましくなかったかな?

亡くなったお兄さんの部屋に入られるのは、直ぐに出ていこう。」


「いいのそれは、ただ..私見ちゃったんだよね。ちょっとおかしいんだけどさ、変な物を」


「変なもの?」「そう、変なもの。」

青冷めるといった程では無いが、少し顔の温度を変えて前より控えめな表情でそう伝えた。


「何を見たんだ?」


「その..モーリーの奴がさ、入っていったんだよ。兄の部屋に」


「いつ頃かわかるか?」


「丁度兄が死ぬ数分前くらいだと思う

それが何かおかしくて。」


「おかしいって..具体的には何が?」


「それが、さ...」

ライムが漸く真の口を開く。


「はかどってますか〜?」「うお!」

ことは無かった。


「お前、探偵!

突然現れるな、驚くだろうが!」


「さっきから後ろにいましたよ、ただ二人が仲良くしてるんで面倒臭くて」


「何しに来たの?」


「調査ですよ娘さん。兄さんの部屋、少し拝見させて頂きます。」

 遠慮して、気を遣っていた刑事とは裏腹にベタベタと執拗に床や壁に触れては目を凝らしていく。


「うん、やっぱりだ」


「何か見つかったか、探偵?」


「落ちてました、まぁ殆どは回収されたか燃え尽きちゃってますけど。」

指で軽く摘み見せたのは小さなガラスの破片。かなり細かく砕かれた形跡があり、見落としても無理は無い。


「そんなもの、一体何の役に..」


「探偵さん確認取れました!」


「有難う。」「エイジ!?」


汗を流して部屋に飛び込んで来た男、

エイジ・ブラームス。ハーパー刑事の後輩にあたる若手の刑事だ。


「お前なんでこんなところに!」


「協力者だっていう探偵さんに頼まれてたんですよ〜、被害者と近辺の情報が欲しいって」


「彼、優秀ですよね」


「バカで都合が良いだけだ。」


「…どうでもいいけど、兄の話は?」


「ご安心下さい。彼の協力もあって全てのアイテムは揃いました。」


「アイテム?」

クエストは一通り完了した。

素材が揃えば残るは腕を振るうだけ。


「さぁ

魔王を倒しに向かいましょう。」

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