第46話 解放

「これが、箕輪ちゃんのスキル……」


上田をデバッグルーム内に招いてしまった。


完全に俺の独断だ、上田も中村さんも明らかに警戒している。



「箕輪さん、近すぎませんか……? 何かあったら危険ですよ」


上田が俺の真横に立っていることを河合が指摘した。


「大丈夫だよ、心配ない」


俺の言葉を聞いて上田はニヤリと笑っている。

それを見て河合はより警戒を強めたみたいだ。


そんな視線など気にせずに上田はデバッグルーム内を見渡す。


「この壁あたりで外が見えるのかな?」


映像を映し出す壁のあたりに観察し上田は俺に問いかけてきた。


「そうだよ、ゲーム内で一度接触した相手ならその壁で見れるようになる」


「へえ、ならマネージャーの場所もわかるのか」


「見えるよ……」



「ちょっと箕輪さん! 言い過ぎなんじゃ……」


「心配ないよ」


河合の静止を押し切った。


「外にいるのはマネージャーひとりになっている、今のマネージャーの様子を見せてくれないかい?」


そう、今は外にマネージャーがひとり……


マネージャー視点の映像を映し出した。


そこに映ったのは、デバッグルームの出入口のすぐそばだった。


やっぱり探しにきたか。


殺しはしないまでも外にいた上田が次のターゲットだった。


「ここが見つかったら全滅か……」


上田の表情が変わった。


背中に回り込まれ首を絞められた。

もう片方の手に持ったナイフは俺のこめかみあたりを狙っている。


「箕輪さん!」


河合が言わんこっちゃないって感じの表情をして俺を見てる……


「悪いな……俺は死にたくないんだ、箕輪ちゃんの命が惜しかったら俺の言うことを聞いてもらう」


俺の首を絞めている腕をタップした。


「上田ちゃん……抵抗しないからさ、もう少しだけ力緩めてもらえるかな?」


そう言うと上田は気持ち力を抜いた、目の前にナイフもあるし身動きは取れないけど、苦しくないだけで十分だ。

なんでか不思議だけど全然恐怖を感じない……


「中村さんみたいに俺のスキルも強化してくれよ、そうすればもっと有利に戦えるかもしれないだろ」


それを聞いて河合が身を乗り出した。


「お願いなら普通にすればいいじゃないですか? なんで脅してまでやらせようとするんですか!?」


「わかってないな……これはマネージャーを殺したものだけがクリアなんだ、みんな仲良くなんてできないんだよ、こうするしかないだろ」


マネージャーを殺したらクリア。

それがずっと引っかかってた……


「箕輪ちゃん! 返事を聞かせてくれよ、嫌ならこのまま君を殺してスキルを手に入れてもいいんだ」


「読心術スキルで俺の返事はわからないの?」


上田がピクッと反応した、俺が最後に手に入れたスキルを知っていることが意外だったみたいだ。


「上田ちゃん……多分さスキルには人の心を黒くさせる成分があるんだと思うんだ」


「それが、どうした……?」


「俺の気持ち読めないでしょ?」


「いや……そんなことない、俺はスキルを手に入れたんだ」


「聴力スキル、飛翔スキルも……同じだ」


上田が震え始めた……


「知能スキル、こいつのせいで心が荒んでしまったんだ……」



足元でナイフの落ちる音がした。

上田が膝をついて頭を抱え震え出す。


「俺は……なんてことを……」


うずくまり、地面に頭を擦り付ける。


「あ………あぁぁ……ぁ」


声にならない声をあげ、時折自分の手をみて悲痛な表情をしている。



「愛……竹内さん……副島さん………うぅぅ………俺は……俺……はぁ………」


見てるのも辛くなるくらい後悔に押し潰されている……

声をかけるのもとまどってしまうくらい苦しそうだ。




上田の姿を河合は気味が悪そうに見ていた。


「急になにが……? 箕輪さんがやったんですか?」


やったには、やったけど……


「これが本当の上田ちゃんだよ」


いままで心が毒されていたんだ……今は自分のやったことに心が潰されてしまっている。


「全部スキルが悪いんだ上田ちゃんのせいじゃない……しばらく放っといてやろう……」


本人が一番辛いんだ。

もう上田が俺達を責めてくることはない。




それよりも……


残るはアイツだ……

元の世界に戻るためには奴をなんとかしないといけない……



「河合、ちょっといいか?」









「箕輪さん……本当に大丈夫なんですよね?」


河合の顔が青ざめている、とてつもなく不安そうだ。


「今の河合なら余裕でいける、心配するな」


「これしかないんですもんね……」



不満そうではあったけど、河合はデバッグルームの外へ出て行った。


申し訳ないけどジ・エンドに対抗できるのは河合しかいない、無理してやってもらうことにした。



「いいんですか? 河合さんすごく不安そうですけど……」


中村さんも心配してる、けどこれが……これだけは成功しないと元の世界に帰れない。


「河合しかいないんだ……」


光スキルのレベルを99にした、文字通り光速のスキルはより研ぎ澄まされたはず。


これでいままでのジ・エンドの攻撃くらいなら回避できるはず、これから先のことは河合に委ねるしからない……

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