第37話 他人のスキルは良く見える

「ぷはぁぁぁ! 助かった……」


河合に助けられた……んだよな?

マネージャーに殺されると思った時にいきなり明るくなって河合の声がして……


近くにデバッグルームの入口があったから、河合と中村さんを連れて逃げ込んだ。



そうだ、外の様子は?


映像を映し出すと、外にいるマネージャー、黒沢、寺田がいなくなった俺達を探している。


デバッグルームは小さい入口だから丹澤が異常だっただけで、本来簡単に見つかるようなものじゃないはずなんだ。



とりあえずこのままやり過ごせるならベストだけど、そうでなければまずいな……


「なんだこの空間? 箕輪さんのスキルなんですか?」


河合が不思議そうにデバッグルーム内を見渡している。



「そう、俺のスキルでさっきの場所から逃げたんだ、それより河合はなんでここに?」


「俺はずっと副島さんといたんですけど、公園に行った時に変な気配を感じて、それが急にいなくなるから追いかけたら箕輪さんがピンチだったんで……まさか相手がマネージャーだとは思いませんでしたけど……」


あの超スピードのマネージャーに追いつけるほどのスピード……?

いったいどんなスキルを持ってるんだ?


◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️

名前:河合 潤 性別:男

身長:171 体重:64

状態:普通


所持スキル

光(レベル3)

◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️



「光スキルか、なるほどね……」


眩しく光ったり、マネージャーに追いつくほど早く動けたのはこのスキルの力だったんだな。


「えっ、俺箕輪さんにスキルの事いいましたっけ? ってうわっ! 壁にデカデカと表示されてる!」


この空間といい、ステータスを見れたり編集できたらと俺のスキルは不思議が多い、河合だけでなく中村さんも興味ありげに俺を見てる。


「俺も全部はわからないんだけどさ……」2人にデバッグルームのことを把握してる範囲で伝えた。


「だから私も箕輪さんのおかげで急に剣が上手く使えるようになったんですね……でも体重とかまで……」


中村さん、ちょっと複雑な表情だ……

目の前でステータスを表示するのはやめとこう……



河合は説明をしてもなお俺のスキルに興味が尽きず目をきらめかせながら部屋を見渡していた。


「いやぁ、すげえ……なんか箕輪さんだけズルくないですか? このスキル便利すぎますよ」


「そうか……?」まあ今の状況だけ見たら確かにそう思うかもしれない、手探りで色々あって判明したことも多いけど、俺はこのスキルひとつで安全地帯から外の様子が見えて、入居した人のステータスを変更できる。


このゲームに積極的に参加する気の奴がこのスキルを持ってたらこれひとつで下手すれば全滅させられるかもしれない。


そうじゃない奴がこのスキルを持つように案外バランスが取られてたりするのかもな……



「うおぉぉぉぉ!」


叫び声? なんだ、映像越しの声だった。



「寺田さんです!」


河合がいち早く声の相手に気付く。


さっきまで俺達を探していた寺田がマネージャーに向かって攻撃しようとしていた。



寺田は確か氷結と火と、若井を殺した事で走力スキルを手に入れてたはず。



「待って!」


マネージャーを攻撃しようとする寺田を黒沢が止めた。


井上は頭を抱えていたが、その声で黒沢と寺田に気付く。


「なんだお前ら、強いスキルを持ってるのか? なら頼む、俺を殺してくれ! もう誰も殺したくない!」



は? マネージャー何を言ってるんだ?


俺には近くに来るなって言ったのに、寺田達には自分を殺してくれだって……?


支離滅裂じゃないか。



寺田は黒沢の言葉を聴き、マネージャーへ近付くのをやめていた。



「マネージャー、なんか苦しそう……」


映像を見て河合がつぶやいた。

確かに見たことないくらい顔が青ざめて、やつれてる、すごく苦しそうだ。


そういえばマネージャーは俺のことを攻撃してきたけど、寺田と黒沢は狙わずに立ち止まっている。


「殺せ……誰でもいい俺を殺してくれよ……」


やっぱり変だ、どうしたんだよマネージャー……

見た感じは隙だらけだけど……


それを察してか、寺田は黒沢に向けてマネージャーをナギナタで刺すフリをしてアピールしている。

殺すとしたら絶好のチャンスだ、マネージャーを殺せばこのゲームはクリア……


「待てっていってるでしょ!」


黒沢は不機嫌そうに寺田を再度静止した。



「うっ!」という声と同時にマネージャーの方が上空に引っ張られ始めた。

自分の意思で引っ張られてるわけじゃなさそうだ、体をジタバタとよじって抵抗している。


「嫌だ! もう誰も殺したくない! やめてくれ!」


抵抗しているマネージャーの体が浮き上がりだした、やっぱり無理やり動かされている。


その直後ものすごいスピードでマネージャーは移動し消え去った。



しばらく唖然としたまま、話すことができなかった。


それくらいようやく見たマネージャーの姿は衝撃的だった。



「操られてたんですかね……」


はじめに口を開いたのは河合だった。


「自分の意思ではなさそうだったよな……あんな顔したマネージャーはじめて見た」


いつも自信に満ち溢れてて、何を言われても動じずにいたマネージャーがあんなに苦しそうに無力に振り回されるなんて……



外では寺田が黒沢に問いかけていた。


「なんで止めたんだ? 殺せばこの世界から出れたんだぞ!」



寺田に話しかけられ黒沢はさらに不機嫌な顔になった。


「もう少しで魅了できたかもしれないのに……アンタが邪魔するから」


黒沢はマネージャーを魅了するつもりだったのかよ……

それを聴いた寺田が今度は顔をしかめ出した。


「魅了? 俺がいるのに?」


あぁ、寺田の中では黒沢と付き合ってるつもりなんだ……


「そうすれば楽に殺せるでしょ! アンタが殺したらアンタだけ元の世界に戻ることになっちゃうかもしれないじゃない!」


そうか、なるほど……

スキルもトドメをさしたやつにだけ与えられるし、元の世界に戻れるのもマネージャーを殺した奴だけってらのはありえるかもしれない。


「だからって俺以外の男をたぶらかすのを見逃せってのか?」


「はあ……?」


この2人ちょっと険悪なムードだ……

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