第10話 フナバシステム自社開発部品質評価チーム

第2の被害者が出てしまった……


まさか金子が死んでしまうなんて……ああいうタイプはいつまでもしぶとく生き残りそうなのに。


せっかく気持ちよく飲んでたのに酔いがさめてしまった。

仲間同士でこんなことやり合うなんてみんな気持ち悪くならないのかな……上田は何を思っているんだろう、自分で好きな人を殺してしまうなんて。


ええい、飲み直しだ! 辛気臭くなっても仕方ない俺は俺でのんびり過ごすって決めたんだ。


人って簡単に死んでしまうんだな……


ダメだ、深く考えるのはやめよう、でも気分転換するにもここにはゲームも本も漫画も何もない。


あーぁ、ゲームやりたいな、もうやれないのかな……







武蔵丸子駅の南側にある丸子小学校、そこに品質評価チームは待機していた。


小学校の隣は公園になっているため、オフィスビルやマンションが立ち並ぶ駅近エリアの中では見晴らしがいい、ここなら万が一誰かが来ても対処ができると、小島の強引な押しで拠点をここにすることになった。


ゲームが始まって以降、竹内と共に妙に張り切る小島のことを金子は不満に感じていた、他の者の意見も碌に聞かずに拠点を決めたこと、さらには度重なる若井への苛立ちも合わさり金子の感情は限界を超え、拠点である小学校を飛び出して行った。



小学校の屋上では視力スキルの杉原が警戒をしている。

すでに若井を発見し、小島の指示で動向を監視しているのだった。


継続して監視を続ける杉原の元に小島がやってきた。


「おう杉原さん、若井さんの動きはどう?」


「さっきまで駅前の牛丼屋にいたんですけどそこを出て隣の料亭に入って行きました」


「よく食うねぇ若井さん、どんな体してるんだろうなぁ」


「もういままでの若井さんの体系じゃなくなってます、腹も腕も太りすぎて服がはちきれてるんです」


「うひゃぁ普通じゃないなそりゃ、ところで出て行った金子さんはどこかにいた?」


杉原は小島から監視する話を簡単に振られたにも関わらず、かれこれ数時間、なんの労いもなくずっと続けさせられていたことにいらだっていた。


「若井さんを見るように言ってたんで金子さんまで目が回りませんよ」


「えぇぇ、それじゃダメでしょせっかくいいスキルを持ってるんだからみんなの為に活かさなきゃ! 若井さんは店入ってからしばらくは出てこないんでしょ? だったらその間に金子さんを探さなきゃ、仲間なんだから」


「いつ出てくるかもわからないのにそんな器用にあちこち見れません、それにずって見てるだけでも結構体力使うんです、若井さんの出入りを調べてるだけでいっぱいいっぱいなんです、もう日が落ちてきてるし、そろそろ見ているのも限界ですよ」


「暗くなると見えないの? そうなの? 頑張っても?」


まるで自分が頑張ってないからみれないと言われたようで杉原はさらに苛立ちを増した。

悪気があるわけではないが小島の発言は誤解されやすい、そのせいでチームメイトから反感をかっている部分があり本人も少なからず居心地の悪さは感じているが女性も多いチームではこんなのものなのだと開き直っていた。

そこにきてこのゲームでは先頭に立ちチームを引っ張っているという達成感と都合よく金子もいなくなったことでうるさい奴がいなくなった開放感が小島をさらに増長させていた。


「まぁ仕方ないか、見えなくなったらまずいもんなそろそろ動くとするか、杉原さんみんなを呼んでこれる?」


「監視はしてなくていいってことですか?」


「あっそっか、じゃあ俺が呼んで来るしかないよな」


そう言い残し小島は屋上から去って行ったが杉原は最早まともに返事する気をなくしていた。

急に来てご苦労さんの一言もなしに無理やり振り回していく小島に怒り以外の感情は湧かなかった。


しばらくして屋上に小島と共に品質評価チームの面々が集合した。


その中に金子の姿は見えない。

菅原があたりを見渡して小島に尋ねた。


「あれ、金子さんは見つからなかったんですか?」


「まだ帰ってないみたいだな、金子さんは本当にしょうがないよな、黒沢さんも外出て行ってみたいだけど見なかった?」


「私はちょっと外の様子を見に行っただけなんで……」


黒沢は小学校に戻ってきていた、上田と金子に見せた態度は微塵も見せず、口数の少ないいつもの黒沢に戻っていた。


「なんか服が汚れてるけど大丈夫? 何かあったんじゃ……」


黒沢の上着や履いていたスカートには所々砂埃や、泥が付いていた。

山田の指摘に黒沢は慌てて服の汚れを払った。


「これは、なんだろ……どこか埃まみれの部屋にでも入ったのかな……全然、大丈夫です」


歯切れの悪い返事にみんな不思議そうな顔をする、言えるはずがなかった、死んだ金子の横で上田と何をしていたかなんて。



「無事だったならまぁいいとしよう、そんなことより時間がない、手短に話をするぞ、杉原さん、若井さんはまださっきの場所にいるの?」


杉原は軽く右手を上げ「まだ出てきてません」と答える。


「日ももうじき落ちてしまう、暗くなって若井さんを見失うことは避けたいからな、その前に一度若井さんと話をしてみようと思う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る