第3話 ソーニャ、三者面談をする

 放課後、二年二組の教室。

 僕――江口大助とソーニャは並んで座り、担任の三森美羽みもりみう先生と向き合っていた。

「ではソーニャ・ラーゲルフェルトさんの三者面談を始めます」

「ハイ!」

 三森先生は二十四歳。美人で抜群のスタイルだけど、親しみやすい人柄で人気を集めている国語教師だ。

(しかし、なんで僕がソーニャの三者面談に……)

 ソーニャの親は、とある北欧の小国に住んでいる。

 彼らの代わりに、ホームステイ先である僕の母が三者面談に出ることになっていたのだが……

 急遽きゅうきょ仕事が入ったので、更なる代わりで僕が出席することになったのだ。

 三森先生は手元の、ソーニャの成績が書かれた紙を見ながら、

「成績は抜群ですね。名門の国立大も狙えるでしょう」

 ソーニャは日本製の凌辱ゲームばかりやったため『日本の高校は全て、肉便器を育成するための学園』と思いこんでいるキ●ガイだ。

 だがそれ以外は、完璧超人なのである。

「ソーニャさん。目標や、夢はありますか?」

「夢……デスカ」

 ソーニャは、フッと悲しげに笑う。

「そんなモノ、何の意味があるのでショウか」

「若いんだから、夢は見ないと」

「結局、私は肉便器になるのデスから。夢など叶うことはありまセン」

「に、ニクベンキ??」

 困惑する三森先生。

 まあ普通『にくべんき』なんてすぐ脳内変換できるのは、イカレてるヤツだけだよな。

(あれ? でも僕、ソーニャから始めて聞いた時すぐ『肉便器』に変換できたな)

 僕はイカれてるのか、と戦慄していると……

 ソーニャのポケットから着信音がした。

「ごめんなサイ、スマホの電源切っておくの忘れ……あ、パパからだ」

 ソーニャのパパか。たしか大麻を常用してるらしいな(ソーニャの国では合法)。

 ソーニャは困惑顔で、

「どうしたんでショウ。日本にホームステイしてから、一回もかけてきたコトなかったのに……」

「なら緊急のご用件かもしれないわね。席を外していいから、電話に出てきなさい」

 三森先生の言葉にうなずき、ソーニャは廊下へ出て行った。

 そして先生は、僕へ視線を向け、

「江口君、ソーニャさんが言っていた『ニクベンキ』ってなんのこと?」 

 まさか『身体を便器のごとく性処理に使われること』とは言えない。別名『公衆便所』『人間便器』などとも呼ばれる。やはり詳しいな僕。

「ソーニャさんの祖国の言葉かしら?」

 焦った僕は咄嗟とっさに、こう口走ってしまった。

「モ、モデルです。ソーニャの祖国の言葉で、モデルのこと」

「え、ソーニャさん、モデルになるの? なるほど……彼女にはうってつけの職業かもしれないわね」

 先生は納得しているようだ。

 その時――

 教室の外から「パパ、嘘でショウ!?」という悲鳴混じりの声が聞こえてきた。

(これは、ただ事じゃない)

 先生に目で合図してから、廊下へ出る。

 ソーニャが顔面蒼白で、スマホを耳に当てていた。

「パパも、気を落とさずに……では、また……」

 電話を切るソーニャ。

 一体、何があったんだ? 家族が大病をわずらったとか?

 腫れ物に触るように、そっと声をかける。

「ソーニャ、どうした」

「大した事では、ありまセン」

「僕は君の同居人だ。苦しんでいるなら、力になりたい」

「ありがトウ。パパが……パパが、私に、こう言ったんデス……」

 ソーニャは、涙をいっぱいに溜めて、

「『超期待していた抜きゲーを買い、購入日に三回抜こうと思ってたけど、年のせいか二回しか抜けなかった』と……」

「ホントに大した事じゃねえ」

 なんでそれを、国際電話で娘に報告する? やはり大麻で頭がキマっているのだろう。

「パパ……可哀想……」

「そうだな、可哀想だな」

 頭が。

 そしてソーニャが、僕の胸に飛び込んできた。

「ゴメンナサイ……すぐに泣き止みますから……少しだけ、胸を貸してくだサイ……」

 そしてこいつは、なぜそんなに悲しんでるの?

 おそらく祖国にいたときに、パパの大麻の副流煙ふくりゅうえんをたくさん吸ったんだろうな。


● 

 

 ソーニャが落ち着いたあと、僕達は再び教室に入った。

 三森先生が心配そうに、

「ソーニャさん、大丈夫? 何のお電話だったの?」

「パパが抜きゲーで三回シコるつもりが……」

 ソーニャの言葉をさえぎり、僕は叫んだ。

「いや、大したことじゃなかったです! 三者面談続けましょう!」

 三森先生はに落ちないような顔をしていたが、うなずく。プライバシーに関わる問題と思ったのかもしれない。ある意味正解だ。

 先生がソーニャを見つめて、

「では面談の続きだけれど……ソーニャさんは、ニクベンキになる予定なのね?」

(あ)

 さっき咄嗟に、先生へ『肉便器とはソーニャの祖国の言葉でモデルのこと』と言っちゃったんだ。

 ソーニャはうなずく。

「予定というか……約束された未来でショウカ。なんとか回避しようと思ってはいマスが」

「約束された未来?」

 先生が「ご家族から、モデルになるように言われてるのかしら……?」と呟く。

 ソーニャは豊かな胸に手を当て、

「一応、肉便器になったときに備えてピアノを覚えたり、腹話術を覚えたりしてマス」

 ピアノは両手で別々のチンポをしごくため。腹話術はチンポをくわえたままでも『大きい……』などと喋るためだ。

 先生が大きくうなずき、

「ピアノに腹話術か。最近はニクベンキにも、個性が必要な時代なのでしょうね」

 会話が成立しちゃってるよ……

 ソーニャが先生の手をとって、

「三森先生、美人だし、色気あるし――肉便器っぽいですヨネ!」

 これほどの侮辱を、僕は聞いたことがない。

「きっと男達が群がる、最高の肉便器になりマスよ!」

「お、おだてるんじゃありません」

 先生が、肉便器呼ばわりされて喜んでる。なんだこの三者面談。

「三森先生、試しにポーズとっていただけませンカ?」

「ニクベンキのポーズね?」

 先生は立ち上がり、腰に手を当てて、右足をわずかに下げた――モデルがよくやるポーズだな。

「ちがいマース!」

 ソーニャはぶんぶん首を横に振った。

 M字開脚で座り、両手でピースし、目線は上に……更には舌を出す。

(これは……)

 アヘ顔ダブルピース!

 肉便器にふさわしい、快楽への完落かんおちを示すものだ。

 ソーニャはアヘ顔のままで、

「これが、肉便器の基本のポーズです」

「ファッションの本場ヨーロッパの、ニクベンキのポーズ……や、やってみるわ」

 結果――

 M字開脚アヘ顔ダブルピースで向き合う銀髪美少女と、美人先生が現れた。

 なにこれ? なに面談?

 三森先生は、アヘ顔ダブルピースしたままで、

「ソーニャさんは将来、ランウェイを颯爽さっそうと歩くのかしら? 素敵でしょうね」

 ランウェイとは、ファッションショーでモデルが歩く、客席の中央にある細長い舞台のことだ。

 ソーニャは、アヘ顔のまま首をかしげて、

「? なんのことデス?」

「みんなが見てる前で歩くアレよ。ニクベンキなら当然するでしょう?」

「ああ確かに……全裸に、服を着てるかのようなボディペイントをして歩いたりしマスね」

「全裸にボディペイント!?」

 羞恥プレイというやつか。

「もしかして――環境問題へのファッション界からのメッセージ? 毛皮などの資源を使わず、直接身体に描くことで」

 先生、納得してる……

 ソーニャが続けた。

「あと三森先生。肉便器は、首輪をつけて歩いたりしマス」

「首輪!?」

 先生はアヘ顔のまま驚いたあと、

「なるほど……『ヒトもまた動物にすぎない』という、そういう意図のファッションかしらね」

 深読みしすぎだ。おかげで助かってるけど。

 時計を見ると、そろそろ面談の終了時間だ。ようやくこの異空間から解放される。

 ソーニャと三森先生は、M字開脚アヘ顔ダブルピースのままで、向き合う。

「先生、今日はありがとうございまシタ」

「いえ、こちらこそ……実はね、先生は昔、ニクベンキになりたかったの」

 先生は窓の外を見て、

「でも私、夢を諦めて先生になった。仕事に充実感はあるけれど……少しだけまた、昔の夢を追いかけてみようかなって」

「先生なら、立派な肉便器になれマス!」

「ソーニャさん!」

 僕は先生が『ニクベンキ』をググらないことを願った。



 教室を出ると、ソーニャは大きく伸びをした。

「いやぁ三者面談、楽しかったデスねー!」

「あんなもん、三者面談ではない」

 そもそもソーニャに必要なのは担任との面談ではなく、精神科医との面談であろう。

「しかしお前のパパも、しょうもない事で電話してきたな」

「アナタも、悩みがあったらいつでも私に電話してきていいんデスよ」

「別に悩みなんかないよ」

「いえいえ、青春時代、いろいろあるものデス……」

 ソーニャは天使のように笑って、

「『エロゲーでオナニーしてるときに、ふとディスプレイに自分の顔が映って、それがキモくて落ちこんだ』とか」

「僕の青春時代の悩み、それ?」

 まあ、たまにそういう事あるけどな。

 





後書き:モチベーションにつながるので、

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『朝日奈さんクエスト〜センパイ、私を一つだけ褒めてみてください〜』

原作を担当した漫画

『香好さんはかぎまわる』

も、よろしくお願いします

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