第7話 新たなる黒歴史?


 登校日の朝目覚ましをつけ忘れていた俺は必然的に寝坊してしまっていた。


「……やべぇ遅刻する」


 あと十分弱で家を出ないといけない。

 さすがに今日こそは行かないと新しい学校生活に確実な致命打を受けることになってしまうからだ。当然、朝食を食べる時間などない。


「先輩、俺の分の朝食はいらないので何か適当に作って食べててください」


 返事がない。まだ寝ているのだろうか。

 だからとはいえ先輩にとって今日は休日、無理に起こしていく必要はない。


その後急ぎ足で玄関に向かうと、あることに気づいた。


「あれ? 先輩の靴がない」


朝から出かけたのだろうか。いや、確かに先輩なら朝から軽く運動ぐらいしているのかもしれない。


「いってきます」


 今は考察に時間を費やしていても仕方がないので、そのまま家を後にした。一応外に出ているかもしれないので、ポストに鍵を入れておいた。


 ポストに鍵を入れ終わると、自宅付近のバス停にバスが近づいてきているのが見えた。まずいな。この時間帯のバスを逃すとしばらくは来ないので遅刻が確定してしまう。


 エレベーターを待つ時間がもったいなかったので駆け足で階段を降り、バス停へ今自分が出せる最高速度で駆け出した。

 ちょうどバスがバス停に到着したところだったのでそのままバスへと乗り込んだ。


「あ、あぶねぇ……」


 少し息切れしながら、休憩するべくバス内の空席を探すと、後ろの二人乗り用の座席が一つ空いていた。そこに座り、カバンを膝の上に置いた。学校に着くまではかなり時間がかかるので、気長に恋愛ものの小説を読むことにした。いやぁ本当にラブコメは面白い。


本当はスマホを取り出してアイドルとシャンシャンするリズムゲームがしたかったのだが地味に周りの視線が怖い。

 視線を気にしてしまうのは、中学時代のトラウマがきっかけだ。もちろん克服など出来ていない。だが少しずつ慣れていかなければならなかった。



 ……そのために一人でここまで来たんだから。



 バスが停車した。バスの入口には俺と同じ栄開高校の制服を着ている生徒が一人いた。

 少し青がかった黒髪に、小麦色の凛々しい目付きに整った顔立ち。制服を着ているから男だと判断できるが別に女だと言われても違和感がないほどの愛々しさを感じる。

 こんなに容姿の優れた人間と学校で関わる機会はないかもしれないが、とりあえず顔は覚えておいて損は無いだろう。


 名前は……青年Aでいいか。


 バスが再び動き始め、青年Aと目が合った。

 視力があまりいい方ではなかったので、顔を覚えようとしてついまじまじと見てしまったのだ。


青年Aはバス内を見渡すように眺めていた。そのため、青年Aを目を凝らして見ていた俺とすぐに目が合った。すると、どこか安堵した様子でこちらに近寄ってきた。


青年Aはおそらく俺の横の空席をご所望なのだろう。


「すまん。隣に座っていいか?」


 青年Aは案の定俺の席の横に来た。おそらく今立場が逆なら俺は話しかけていないだろう。しかしこの青年Aはなんとも言い難いが「陽」のオーラを感じる。ダメだ俺の苦手なタイプだ。


 だからとはいえ断る理由にはならないので少し窓側へ詰めてスペースを開け、青年Aが座りやすい状態にした。


「ど、どうぞ」


 地味に噛んでしまった。……わかっていても言葉が出てこないのは生まれつきの俺の特徴なのだ。トラウマを克服する前にこっちを直したいな。


「サンキュ。悪かったな読書の邪魔して」

「別に気にしなくていいぞ」

「そうか。俺は田島裕樹たじまゆうき。1年だ。よろしくな」


 ……田島か。ごめんなさい今まで青年Aとかいうモブみたいな名前で呼んでました。


「こちらこそ。俺は月島和弥だ。よろしく」

「月島か……ん? お前何組だ」

「1年C組だった気がする」

「同じか。……楽しくなりそうだな」


 そういうと田島は「ククク」と悪ガキじみた笑い方をしながら俺の制服のポケットにあるスマホを取り出した。


「とりま連絡先交換しようぜ」

「いや急だな」

「聞きたいことが山ほどあるんだ」


 何故だろうか。田島とはついさっき会ったばかりなのにこちらの事情を何か知っているような口ぶりだ。俺が何かバレたら困ることでもあっただろうか。……いくつか思い当たる節はあるが、それらは俺のことを小学校の頃から知らないと分からないことである。


 他になにか……あ。

 いや……でも、まさかな。


 ……葉賀先輩のことがバレるわけないよな。


 さすがにないと思うが一応聞いておこう。

 できるだけさりげなく、遠回しに。


「なぁ田島。俺って学校で有名か?」

「それはそれはもう有名人だぞ」

「……どんな感じに有名なんだ?」

「学校に着けば分かる」


 田島がそういうとまるで裏で口合わせしていたかのようにちょうど学校の最寄りのバス停に着いた。

 バスの中にいた同校の生徒がバスの中から流れるように降りていった。


 俺と田島もその流れに続いてバスを降りて、学校へ向かった。


 校門には桜の木が立ち並んでおり、一面がやわいピンク色になっている。地域の伝統校感が出てきる和風な校門とすごくマッチしている。帰りに写真撮ってこう。


「教室の場所わかるか? 先輩として案内するぜ」

「そりゃ助かる。てか同級生だろうが」

「一日早く来てるからな。日数なら先輩だ」

「それじゃ二日休んだら後輩じゃねぇか」

「その発想はなかったぜ」


 くだらない会話をしながら教室へと向かう。

 一応学校の中の構造は把握していたつもりだったが案内してもらった方が安心出来るし、田島は絶えず話題を振ってくれてすごく話しやすい。いい友達になれそうだ。


「あそこがC組の教室だぜ」

「もう見えてるって。案内ありがとな」

「別にいいってことよ。あ、今の席順は出席番号で並んでるから月島は俺の後ろな」

「おう」

「……月島、一つ忠告だぜ」

「なんだ?」


 教室の手前の廊下で立ち止まった田島は何かしらただならぬ雰囲気を放っていた。何かやらかしてしまったのだろうか。

 ……何故か既視感がある。


「何とは言わねぇがお前は今、この高校の男子大半の恨みを買っている。下手に口を滑らすなよ」

「俺が有名って悪い意味だったのかよ」

「それが何か聞きたいか」

「……あぁ」


 もう予想はついている。中学までの黒歴史から目を遠ざけるために単身で来た栄開高校で俺が既にやらかしていること。


 それは───



「お前、葉賀先輩と付き合ってんだろ」


「……は?」



 そこで俺が突きつけられたのは、俺が今最も知られたくないことと、第三者の妄想によって限りなく悪い方向へと変化を遂げていた、俺と先輩の現状だった。




〘あとがき〙

 ども、室園ともえです。

 これからは和弥達の通う栄開学校での出来事も含めストーリーを展開させようと思います。

 さすがに毎回鬱展開なのも客観的に見て気持ちの良いものではなかったので、ここからは

 今までよりは少しゆったりとしたものになると思います。……少しは。

 さて、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。ぜひ気軽に感想やレビューをしてくださると嬉しいです。

 それでは、また。

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