胸やけ

エレガントな紳士が、メニューを閉じながら言う

「君、

『恋愛感情はひとかけらもなく、どろどろの肉欲だけで繋がっている男女のピロートーク』

はあるかね?」

ギャルソンは答える

「はい、しっかり熟成して芳醇な香りのものがございます」

「ではそれをひとつ、くれたまえ」

「かしこまりました」


ファビュラスな淑女が、メニューを閉じながら言う

「あなた、ずいぶん重いものを召し上がるのね

わたくしは軽めに

『恋愛感情なんて1mgもなく、打算だけで相手に身を委ねる女のモノローグ』

をいただこうかしら」

ギャルソンは微笑む

「本日、極上のものをご準備いたしました」

「あら、それは幸運ですわ」


平々凡々な娘が、メニューを閉じてもじもじする

「あのぅ、

『親友と大好きな先輩の間で揺れる少女の恋の、送れなかった告白メッセージ』

お願いします」

ギャルソンは口元を歪める

「……胸やけなさったり血反吐をお噴きになるお客様が

大勢いらっしゃいますが

そのご注文でお間違いございませんでしょうか」

「はい」


紳士が言う

「大人になるとそういうのは重くて消化できなくなってくるからな」

淑女も言う

「私もそうだったわ

若いうちにしっかり味わっておくといいわよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る