第17話 全ての霊を祓う事はしない


休憩所のベンチに座って一息ついた。


「本田君と上原さんは大満足だったようだね。僕と里奈は少しビビってたよ」


売店で買ったジュースを飲む。冷たくて美味しい。


「このプールってこんなに過激だったんだ。僕はプールって所を舐めていた」

「私も同じ。結構、ううん、もの凄く怖かったかも。もうフィーバータイムはお腹いっぱい」


フィーバータイムは午後にもあるようだ。本田君と上原さんはまた行くらしい。僕と里奈は遠慮する事にした。

それから流れるプールで少しのんびりした。何か疲れた。

時間も丁度ランチタイムに突入。

色々な売店がある。

ピザ・ラーメン・サンドウィッチ・カレーにバーガー・そば・うどん・丼物・パスタにステーキ!?

プールなのにすごいな。プールでステーキ食べる人いるのかな。


「何食べるの?私はバーガーにしようかな」


里奈はバーガーか。


「僕はうどんかなぁ」


とりあえず席を確保してうどんの列に並んだ。

素うどんに稲荷寿司の黄金ペアを購入し席に戻った。

席には里奈がすでに座っていた。そして何か見た事ある男たち4人。


「忍、こっちだよ」


里奈が僕を呼ぶ。助かったぁという顔をしている。


「お待たせ」


僕が席に戻ると露骨に嫌そうな顔をする4人。こいつら同級生だ。見た事ある。


「連れがきたのでまた今度。忍はうどんとお稲荷さんですか。美味しそうですね」


男たちは居なかった様に扱われている。


「沢木さん、一緒にご飯食べない?そいつが一緒でもいいからさ」


はぁ?僕はお前らと昼食を食べたくない。

そのタイミングで上原さんも帰ってきた。ピザを持ってる。


「上原さんも一緒なの?いいじゃん、俺たちと合流しようよ」


面倒な奴だな。


「えー、合流とか別にしなくていよ。私たちは楽しく遊んでるんだからねー。だから嫌。そら早くどっか行って」


上原さんがぶった切る。


「そうね。忍と楽しい時間を過ごしているんだから放っておいて下さい」


里奈も拒絶を表示。男たちはなんとか里奈や上原さんと合流したいんだろう。なんと僕にも話を振ってきた。


「お前も人数が沢山のほうが楽しいだろ。合流してもいいんだぞ」


バカじゃないのか?


「女の子と遊んでるほうがいいよ。なんで野郎たちと泳がなきゃならないの?」


男たちは黙ってしまう。当たり前だよなぁ。

そしてそのタイミングで天野君登場。彼らは天野君たちのグループみたい。


「やぁ、沢木さんこんにちは。こんな所で会うなんて。上原さんと月宮君もこんにちは」


おい、こんな空気の中でさわさかに登場するな。


「お、天野。沢木さん達を一緒に遊ぼうかって誘ってたんだ」


男たちの一人が天野君に言う。そしてその言葉にかぶせるように上原さんが話す。


「私たち合流しよってしつこいんですよー。嫌がってるのにね。いくら沢木さんと遊びたいからって常識なさすぎ。絶対に嫌われるパターンって理解できないのかなぁ」


いいそ、もっと言ってやれ。

現状を何となく理解したのか、天野君は4人を連れて離れて行った。離れるときに里奈や上原さん、そして僕にもごめんねと頭を下げて行った。なんだよ、天野君はいいやつじゃないか。

僕たちが気を取り直し食事を始めると本田君が返ってきた。


「うぃ~、ステーキ買ってきたぜ。もちろんレアで」


本当にステーキ買ってた。


「本田君がいない間に同級生の男子グループに絡まれて大変だったんですよー」

「え、マジ?上原さん大丈夫だったの?月宮と沢木さんは?」

「大丈夫だったよ。上原さんがバシッと言ってくれた。邪魔するなって。男の僕は案山子でした」

「同級生って誰だよ。俺がバシッと言ってやったのに。説教だよ。プールでナンパとか節操ないな」


えー、本田君がそれを言うか。プールでナンパするってこないだ言ってたじゃないか。

僕たちは本田君に突っ込みを入れながら食事をした。おうどん美味しい。



午後になり、本田君と上原さんは波のプールに向かった。フィーバータイムを満喫するらしい。


「忍、流れるプールでのんびりしない?」

「そうだね。午後はのんびり浮かんでいるだけでもいいかな」

僕と里奈は流れるプールに向かった。流れるプールは1周600メートルある。

「ほら、一緒に浮き輪入っていいよ」

「それじゃお言葉に甘えて」


僕は水に潜り里奈の浮き輪に潜り込んだ。浮き輪の狭いスペースの中で向かいあっている状態。里奈の大きな胸が、僕の胸で潰れている。最高に気持ちいい。気分も感触も。今すぐ抱きしめてキスしたくなる。


「は~、たまにはのんびり浮かぶのもイイね」


うん。気持ちいいね。


「そういえばさっきはごめんね。せっかくみんなで楽しんでいたのに。ほら、天野君の仲間たちだよ。挨拶位なら構わないのにしつこく付きまとうなんてありえない」

「まぁ、そうだな。里奈が嫌がってるなんて思ってなかったんじゃないの?俺が誘えば嬉しいだろって感じで」

「そういう人って本当に困るよね」

「あぁ、自分が上なんだって思ってるんじゃない?そんな人はどうでもいいよ。今は里奈と一緒にのんびり浮かんでるんだから」


それもそうかと里奈も納得する。


「そういば忍に聞きたかったんだけど。飛び込み台のプールあったよね。あのプールからすごく嫌な感じがするんだけど何か見える」


ほう、里奈も気配を感じることが出来たのか。


「気がついたんだね。あそこのプール脇に霊がいたよ。いや、霊はあっちこっちにいるけど大体は無害。ただ、飛び込み台の所にいるやつは周りの人を呼ぼうとしてるね」

「祓ったほうがいいの?」

「今日は道具がないから祓えないよ。僕が怪我でもして血を流せば血水が作れるけどね。全ての霊を祓うこともできないし、直接関係してこない霊は無視する事。なるべく視線を向けないようにね。声が聞こえても聞こえないフリをしてね。相手が気がつくと着いてきちゃうから」


なるべく嫌な気配のする場所は見ない事、行かない事と説明した。


「わかった。注意するね」


そうそう。無理する必要ないからね。

それから30分もすると本田君と上原さんが戻ってきた。

一つの浮き輪に2人で入って流されてる様を見て初々しいカップルを見ているようだと言われてしまった。照れるぜ。里奈も照れてるようで赤くなっていた。美少女の赤面とか大好物です。脳内フォルダにしっかりと記憶しておいた。

その後はスライダーに何回か乗って帰ることになった。

帰り際には本田君と上原さんが次のイベントの話で盛り上がっていた。次はBBQか海水浴に行きたいらしい。人数をもっと増やして思い出を作ると本田君は熱くなっていた。

まぁ今日は思っていたより楽しい一日を過ごすことができてよかった。



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