第13話 霊には市役所も悩む

放課後になった。今日は里奈が呼び出しを受けているのでバイトはなし。

僕も早々に家に帰る。


「おーい、月宮!」


校門を出たところで声を掛けられた。振り返ると同じクラスの北島君が走ってきた。


「帰るんだろ?俺も途中まで一緒に帰っていいか?」


彼はクラスの人気者である。明るい性格に親しみやすい雰囲気を持つ男子。何故僕に声を掛けた?まぁ、クラスメイトだからおかしくはないが。


「ん、いいよ」


北島君と並んで歩く。


「今日は沢木さんと一緒じゃないんだな」

「いつも一緒じゃないよ。里奈は他のクラスの男に呼ばれてたからね」


知ってて聞いてくるな。なんか僕が可愛いそうな感じに見られるじゃないか。


「ありゃ告白でもされるのかね。最近はあまり聞かなかったけど前はしょっちゅう告白されていたみたいだし」


へぇ、そうなんだ。あの美貌じゃそうなるか。


「彼女はもてるだろうからね」

「心配?天野に取られちゃうんじゃないかって」

「心配も何も別に僕たちはただの友達だし」


うん、仕事仲間って言うと根掘り葉掘り聞かれそうだから友達って言っておこう。

彼女がバイトを始めた頃に一度話したことがある。僕と急に親しくなったら何か言われるから、親同士が仲がいい事にしようと。


「そういう事にしておく。でもな月宮、普通は友達に弁当作ってきたりしないからな。お前と沢木さんの関係は注目されているからな」

「僕にそんな事言われても困るよ。彼女が誰と付き合おうとも構わないよ。里奈が選んだ人なら応援するし」


知り合いには幸せになってほしいからね。そのついでに僕が幸せになれたら最高だな。


「余裕だな。沢木さんはこれくらいじゃ揺らがないという自信があるのかな?」


別にそんなんじゃないし。


「さぁ、どうだろうね」




~沢木里奈~

放課後になった。昼に教室に来た天野君との待ち合わせ。

中庭に向かうと天野君が待っていた。


「お待たせしました。それで要件はなんでしょうか?」


わざわざ呼び出すなんて面倒な。これはいつものパターンで間違いないでしょう。


「わざわざ来てもらってゴメン。沢木さんに話があって来てもらった。単刀直入に言うと君のことが好きだ。お付き合いしたいと思っている。でも、知りもしない人と付き合うなんてできないだろう?だから友達になってくれないかな」


なるほど、確かにいきなり付き合おうと言われても100%お断りでしょう。


「そうですね。お付き合いの申し込みだったらお断りでしょうが友達になるのは問題ないですよ」

「よかった。それと沢木さんは月宮君と付き合っているのかな?そういう噂が立っているのを聞いたんだが」

「そんな噂があるんですか?別に付き合ってないですよ。たしかに男子の友人では一番仲がいいですから」


男子生徒の友人は沢山いるけど、プライベートで親しくしてるのは忍だけだ。彼は私たち家族の恩人で、仕事仲間でもある。私が雇われてるだけだけどね。


「今まで沢木さんの浮いた噂を聞いた事なかったんで焦ってしまったんだ。彼とはどういった経緯で仲良くなったのかな?あ、言いたくなければ言わなくてもいいんだけど、不思議に思ってね」


忍との関係は前に話して決めてある。


「彼とは家族ぐるみの付き合いです。プライベートでも家に行き来している間柄ですね。個人的にも好感のもてる人ですし」


家族ぐるみの関係は嘘ではない。彼も私の家族と話をするし、私も彼の家族と会えば雑談する位の関係である。そして私達の除霊のお礼にと2家族で食事にも行っている。


「そうか、幼馴染みたいな関係なのか。ありがとう理解したよ。それでなんだけど、今度の週末に映画でも見に行かないか?友達の第一歩として君と出かけたいと思っている」


うーん、2人で出かけるのは嫌だなぁ。それに週末は除霊の予定が入っている。スケジュール調整をすれば行くことは可能だけど、わざわざ予定を変更してまでも天野君と出かける理由はない。


「ごめん、週末は予定が入ってるの」

「そうか、突然言われても沢木さんも予定があるよね。じゃぁ、次の機会に誘わせてもらうよ。今日は目標の”君と友達になる”ってことはクリアできたからOKさ。時間を作ってくれてありがとう」


天野君はそう私に告げると走って戻っていった。

ふむ、彼は今までの男性とは少し違うようだ。だって、突然知らない人に告白されても困るだろうし、付き合うことにOKする事はない。まずは友達として少しずつ距離を詰めようという事なんだろう。そういう所には好感が持てる。


「でも、今現在は彼氏とかいらないんだけどね。忍と仕事してるのがとっても楽しいしね」


あ、忍にラインしよ。週末の仕事のスケジュール確認しなきゃ。




週末土曜日。

今日の除霊の仕事は市からの依頼。市が管理している民家で霊がでるのでどうにかしてほしいと相談があった。

その民家は市の山間部にあり、取り壊そうとすると工事関係者が怪我をしたり病気になるという。また、工事車両も故障の連続で作業がストップしている状況らしい。困った担当者が知り合いの不動産屋に相談をして僕に行きついたみたい。

民家の除霊はいつもやっているが、自治体からの依頼は初めて受ける。電話で依頼内容の相談を受けた時に、好奇心で”市の予算で除霊なんて大丈夫なんですか?”と質問をしてみた。除霊という名目で予算は組めないので、整備・管理とかでうまく帳尻が合うようにするらしい。

僕たちは朝9時に市役所に到着。担当者が高校生の除霊師と知らなかったのでビックリしていた。

市役所から車で1時間。僕たちは担当者が運転する車の中で状況を再度確認をする。


「民家は山間部にあります。誰も住んでいない集落跡地で、すべての家が取り壊しの予定です。工事関係者が体調をくずしたり怪我をおってしまうんです。あれは絶対にヤバイ何かがいます。工事車両も故障しますし、話声なんかも聞こえたりするんです。みんな怖がって工事が全く進んでいません」


悪い霊によくある現象だ。


「昼間でも薄暗い雰囲気ですし、工事関係者が空き家に人影を見たりもしてます。当初、何かが憑いてるので工事が進められないと説明しても上司は全く信じませんでした。その上司も実際に足を運んで霊現象を体験してやっと理解したんです」

「どんな霊体験をしたんですが?」

「空き家で人影を見た後に、耳元で”出てけ!”って囁かれたみたいです。周りに誰もいないのに声が聞こえたって大騒ぎでしたよ」


いきなり耳元で囁かれたらビックリするよね。うわっ、って声出す自信がある。


「それは災難でしたね。あいつらの声って小さくても直接頭に響くんでビックリするんですよね」


霊は見慣れてるけど、突然現れたりとか声がしたりとかは僕でもビックリするから。


「なので月宮さんに依頼する前に、市内のお寺にお祓いを依頼したんですが効果無し。それに除霊師さんにも依頼したんですが失敗。除霊師さんは転倒して足を骨折しちゃいました。仕事継続が困難になり除霊師さんは辞退で私共も困っていました」

「あー、霊のほうが力が強かったんでしょうね。再チャレンジしても怪我、最悪命を落とすので辞退したんでしょう。自分の力量を把握できてる除霊師さんだったんですね」


見極められない人は危ない目にあう。


「どこの市や県でも曰く付き物件があるんですよ。説明しようのない現象が起こる物件が。大体は手が付けられないので塩漬けになってます。独自に除霊師を雇ってるとこもあるみたいですが、うちの市は初めてだったので知り合いの不動産屋に紹介してもらったんです。月宮さんの除霊能力は物凄いって褒めてましたよ」


紹介してくれた不動産屋さんには感謝だな。市や県、国などの仕事はとてもありがたい。仕事の量や単価も良く、もめ事も少ない。個人からの依頼だと除霊しても信じてもらえずに料金がもらえなかったなんて聞くし。


「紹介してくれたら頑張って仕事しますよ。ただ学生なんで平日は無理なんですけど」

「ええ、月宮さんの仕事は確実って評判を聞いてますから。失敗するケースを考えなくていいってのは依頼主側からすればありがたいです」


ちなみに今回の料金は前金10万、成功報酬30万の計40万。ぼろ儲けです、ありがとうございます。

市役所を出発して約一時間で現場の集落跡地に着いた。現地まで行ってしまうと車が故障してしまうかもしれないので、集落の手前200メートルの場所に車を止めた。


「私はここで待機しています。携帯はつながるので何かあったら連絡をください。念の為1時間ごとに連絡を入れさせてもらいます。2時間連絡が取れなかった場合は救助を呼びますので」

「了解です。今日中には終わらせるつもりです。現地で予定変更や緊急事態があった場合は連絡します」


僕と里奈は除霊道具や食料を背負って集落に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る