第2話 プロローグ2 飲み込まれた2人

 「かあさん、行ってきます」

 「おばさま、行ってきます」



 勇気(ゆうき)光(コウ)と神女(しんめい)千代(ちよ)は、玄関先に立つ笑顔のコウの母親に言った。



 「本当、いつも悪いわね千代ちゃん」

 「いえ、コウちゃんとは昔からの付き合いですし、コウちゃんを起こすのも私の義務だと思ってますから」



 千代が笑顔で言うと、コウは不機嫌そうな顔で



 「何だよ義務て。それじゃまるで俺がガキ見たいじゃないかよ!」

 「あれ?(笑)コウちゃんは子供じゃなかったの?(笑)」

 「子供じゃない!」

 「私にいつも起こしてもらっているの誰かしらね〜(さらに笑)」

 「くっ‥‥‥」



 ニタッと笑いながら言う千代に光は言い返せないでいた。

 まあ、毎日学校に行く時や、何処に遊びに行く時も、いつも千代に光は起こしてもらっているのは事実なのであるから、言い返せないのは当たり前である。



 「本当に千代ちゃんが光と一緒になってくれたら私も安心なんだけどね〜」

 「え〜(満更でもない顔)おばさまったら(照れ)」


 

 そんな2人の会話の横で、浮かない顔のコウは



 『‥‥‥俺が千代と一緒?‥‥‥じょ、冗談じゃない!』

 と、心の中で呟いた。



 コウは想像していた。毎朝あの様に起こされたらと思うと、身の毛がよだつ。

 と言うか、一生千代の尻に敷かれて暮らすのかと思うと。



 「あっ!けど、千代と一緒になるなら千代の美人のおばさんが俺の義理母さんになるのか〜‥‥‥。うん!いいかも!」

 「うん?コウちゃんはお母さん目当てで私と一緒になるの?」

 「おう!」

 


 コウが返事を返すと、千代は顔を下に向けると無言で向きだし、



 「どうした千代?」

 「コウちゃんの‥‥‥」

 「えっ?」

 「コウちゃんの‥‥‥ブゥワガアアアーーー!!!」



 コウの横腹に千代の拳がヒット!

 悶え苦しむ光に千代は光にバカと連発して言う。

 で、光の母親は、やれやれとした表情をして



 「今のはあんたが悪いよ。千代ちゃんに謝りな。あと学校に遅れるよ」

 「イッッ、ったく」



 しょうがないとした顔で千代を追いかけようとするコウの後ろから声が、



 「ちよおー!わすれものよーお!」

 「あっ!おばさん」

 「あっ、コウちゃん。おはよう」

 「おはようございます。千代が何か忘れ物をしたんですか?」

 「ええ、お弁当に箸を入れ忘れたのよ」

 「あっ、だったら俺が渡しときますよ」

 「そう、助かるわ」



 千代に声を掛けても、千代はまだプンスカと怒っていて、美人の千代の母親の声が届かず、コウは千代の母親から箸を受け取ると、いつものアレが目に入った。



 「それにしても毎回見るけど、そのペンダント、綺麗な青色で変わった形をしてますよね」



 そう言うとコウは千代の母親が首にかけている大人の親指程の大きさはある、龍がとぐろを巻いているペンダントに目をやる。



 「あっ、これね。私が学生の時からつけていたものよ。それよりも‥‥‥」

 「えっ?何ですか?」

 「私のココが好きなのかしら?」

 「えっ!///」



 コウがあまりにもジッーと見つめるので、千代の母親は自分の大きな胸の胸元に指を差すと、コウはドギマギとしながら赤面をする。

 が、コウは自分の後ろから何か殺気の様な感じがして見ると、



 「こ〜う〜ちゃ〜ん〜(怒)」

 「ゲェッ!ち、千代!」

 


 腕を組んでコウを睨みつけて仁王立ちしている千代がいた。

 


 「本当にコウちゃんはスケベなんだから!お母さんもコウちゃんで遊ばないの!」

 「えっ?だってコウちゃんいつも反応が可愛いからつい、ね♡」

 「もう〜っ(怒)、コウちゃん!早く学校に行かないと遅刻するわよ!(まだ怒)」

 「お、おい千代。まてってば!」



 千代の母親に会釈をして千代を追いかける光の後ろ姿に「いってらっしゃい」と声をかけて見送る千代の母親。

 暫く歩きながらコウは千代に弁解しながら



 「ちょ、待てよ!千代!待てってば!」

 「ふん!(怒)」

 「千代!まてよ!千代、千代さん、千代様!」

 「ふん!男って、まったく!」

 「だから勘違いだって!俺はあのペンダントが気になっただけ‥‥‥」

 「どうだか!」

 「千代様〜!‥‥‥うん?」



 コウが千代をなだめていると、コウが何かを感じたのか、いきなり立ち止まる。

 千代はいきなり立ち止まるコウに、「どうしたの?」と言った顔つきになり、



 「コウちゃん?どうしたの?反省したの?」

 「いや、‥‥‥何か聞こえなかったか?」

 「いやって、コウちゃん反省してないんだ!」

 「うん?あっ、反省はしてる。それより本当に何も聞こえなかったか?」



 膨れっ面する千代を前に、コウは何か不可思議な様な表情をして辺りを見渡す。



 『なんなんだ?いったい?‥‥‥』



 そう、コウが思っていた時、



 ーーーた・ーーーす・ーーーけ・ーーーて・ーーー



 途切れ途切れの言葉が、コウの耳に響いた。

 いや、耳に響いたと言うよりも、コウの魂に呼びかけてくる様な感じで。



 『まただ!』



 コウは再度辺りを見渡すが、誰もいない。

 居るのは千代とコウだけ。しかもここは川沿いの土手の道。叫び声なら千代にもわかるはずだが、千代はコウの「何か聞こえなかったか?」の質問に、首を横に振る。



 『誰なんだ?‥‥‥』



 コウが考え込んでいると、千代がある事に気づいた。それは、今まで綺麗に晴れ渡っていた空が、いつの間にか暗くなっていた。



 「コウちゃん‥‥‥空が」

 「うん、夕立でも来るのか?千代!学校まで走るぞ」

 「うん!」



 コウと千代が、暗くなった空に気づき、雨が降り出すと思い、走りだした。

 その時!




 ‥‥‥ブホワァァァ‥‥‥



 小さな音を立てながら、コウと千代の前に白い野球ボールぐらいの球体が現れた。

 その球体は、コウ達から50メートル離れた所に現れたと思ったら、急に10メートル手前まで接近して止まる。



 「何なんだよ!」

 「コ、コウちゃん‥‥‥何?これ?怖いわ」




 2人は謎の球体に恐怖を感じ、千代は震える手で光の腕にしがみついた。

 そんな千代を見たコウは、俺が何とかしなければとの思いがふつふつと湧き上がる。

 ただ、コウも得体の知れない物に恐怖を感じていたのは間違いなく、自分の震える体を千代に気づかれまいと必死に千代をかばおうとするコウ。



 『千代だけでも守らないと‥‥‥けどなんなんだよ』


 


 コウがそう思っていた時、白い球体はいきなり3メートルはあろうかの球体に変化した。



 「なんだよ!これは!」

 「こ、コウちゃん!」

 「千代!お前だけでも逃げろ!俺が何とか‥‥‥」



 コウが千代に叫んだ次の瞬間



 ーーーグッゴゴゴオオオ!!!ーーー



 空気を切り裂く様な音とともに、コウと千代を吸い込もうとしだした。

 それはまるで巨大な掃除機の様に。

 コウの叫ぶ声も千代の悲鳴も全て吸い込まれていく様にかき消された。

 そして、ついには、コウと千代を巨大な白い球体は2人を飲み込んでしまった。

 


 ‥‥‥ち、千代だけでも‥‥‥



 吸い込まれながらコウは千代を頭から抱きした。自分がどうなろうと、千代だけでもとの思いで‥‥‥。

 そしてコウは、薄らいで行く自分の意識の中である女性の姿をぼんやりと見る。



 ーーーコウ‥‥‥コウ‥‥‥ーーー


 ‥‥‥だ‥れ‥だ?‥‥‥


 ーーー守って‥‥‥コウ‥‥‥ーーー


 ‥‥‥守る?‥‥‥なにを?‥‥‥


 ーーーこの世界を‥‥‥魔王からーーー


 ‥‥‥ま‥お‥う?‥‥‥なんだ?‥‥‥


 ーーーお願い‥‥‥コウーーー



 その言葉を最後に聞いて、コウは気を失った。光の渦に飲み込まれながら。千代と一緒に‥‥‥。



 



 



 


 

 



 


 

 

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