第3話 あなたの意思でわたしを殺す

 僕は生い立ちをシオンに話す。自分のことを人に話すのは、面接以外でなかったからすごく緊張する。でもシオンは僕の目を真っ直ぐみて、聞く準備をしてくれてる。ちゃんと話さないと、、、


「僕はドラキュラ界で生まれたんだ。小さいときは元気な子供だったと思う。でも、ある事件がおきて、目の前で母様は死んじゃったんだ。僕はなんにもする気がおきなくて、ふさぎがちになった。でも、母様がくれたこの名前に恥じないように、いろんな秘密道具を持つアニメキャラになるために、いろんな道具を1人でずっと作ってた。母様はみんなの役に立つ子になってほしいと思ってたのに、僕はひみつ道具を作るということに没頭したんだ。多分、1人になる言い訳を探していたんだと思う。母様に守られていない中で、人と接することが怖かったんだ」

「そう、、、」

「学校にいっても、ずっと1人だった。そんな僕を父様は出来損ないといい、僕よりも兄様達を溺愛した。学校でみんなに勇気を出して話しかけてみても、なぜかみんな僕を嫌がったんだ。それで僕は避けられることが怖くて、、1人で過ごすことが多くなった。1人は気楽でいいんだよ。誰にも嫌われない」

「そう、、、あなたは基本気持ち悪いけど、そんなに嫌われるような感じだとは思わないわ」

「シオンはけなしているのか元気づけようとしているかよくわからないね。でも、僕はダメドラキュラなんだ。ドラキュラ界で就職活動したけど、どこにも受からなくて、、、だから人間に紛れて人間界での就職活動を始めたんだ」

「ドラキュラ界で無理なのに人間界で就職活動を始める行動力が気持ち悪いわね」


 その逐一、気持ち悪いっていう相槌やめてほしいな……


「そうじゃないと生きていけなかったんだよ。でも何故か、人間界トップ医療メーカのメディペドに入れたんだ。このトップ医療メーカで出世すれば、僕のことをみんな認めてくれると思ったんだ」

「トップ医療メーカに入ったことを自慢しようとするなんて気持ち悪いわ」


 別にいいじゃん。僕、泣いちゃう……


「わたしはあなたが認められるための道具って訳ね」


 それは仕方がないことだよ。君を救うことは出来ないんだ……

 リリス部長や社長が血液を作れって言うし、僕はそれに従っているだけだ。僕は悪くない。


 シオンを少しでも元気づけたいな。


「シオンはなにかしたいことある?」

「そんなことをいっても意味がないわ。だってここから出られないもの」

「……」

「ここから出たいわ」

「それは無理だよ」

「施設の子達も心配してる」

「施設の子?」

「ここに監禁させられる前、わたしは修道院にいたのよ。捨て子だった私をシスターが拾ってくれた。だから親の顔なんて知らない。少しだけどマザコンのあなたが羨ましいわ。でも、施設の人たちがそばに居てくれたから、わたしはここまで大きくなれた。今は、年下の子達が泣いてないか心配だわ。みんなに会いたい」

「そんなこと言われても、ここからは出れないんだ」

「……あなたには期待してないわ」

「……」


 シオンはぼくのことを認めてくれない。いうことを聞いても良いことない。話を聞くのはもうやめよう。僕を褒めてくれるリリス部長や社長の言うことを聞くことし……


「ドラキュもん。あなたの上司や社長はあなた自身のことを見ていない。能力だけを見ているの。でも、あなたの優しさを知っているわ。あなたに会ってからわたしは痛い思いをすることが少なくなった。あなたの前任者は、わたしの前で何人ものサンプルを楽しそうに殺していた。それと比べれば、お母様がいうように、あなたはひみつ道具で、わたしの痛みを減らしてくれてるわ。本当はこんなことしたくないのよ」


「……」


 リリス部長や社長が能力しか見ていない、、、確かにそうかもしれない。彼らからしたら、僕も使い捨ての駒、、、前任者のように役立たずだとわかったらすぐに取り替える。僕の代わりは幾らでもいる。このまま開発が順調に進めば、みんな僕のことを認めてくれると思ってた。


 でも、みんなは僕の何を認めてくれるんだろう。


「今してることは、お母さんが望んでいたことなの?」

「……」


 母様は僕に人の役に立つ子に育ってほしいと願った。

 この血液ができれば、ドラキュラが血を求めて人を襲うことが減ると言われている、、、争いが減ってより良い世界になる!シオンが犠牲になるけど、多くの人を救えるんだ!


「大勢の人を救えると思ってる!」

「あなたはわかっていないかもしれないけど、あなたがしようとしていることは、ただの人殺しよ。大勢を救うために、わたしを殺そうとしているの。誰かが指示したのではなく、あなたが選択したの、あなたの意思でわたしを殺すのよ」

「……」

「母様はこのことをどう思うかしら」

「……」


 僕はその場にいられなくなって、実験室を飛び出した。そのときシオンの声が聞こえていた気がする……でも、そんなことどうでもいい。早く帰って引きこもりたい……


「子供ね。本当に気持ち悪いわ」

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