第2章「ひねくれアイザック」


 秋の枯れ木が目立ち始めた頃、ようやくニュースらしいニュースがレイダンの耳に届き始めた。出生届の出された赤子のうち、三人が、村の傍の森のなかで遺棄されているのを、小作人の男がさいしょに見つけた。あまりにもむごいので、その男は黙って村の礼拝場の墓地の一角に埋めた。当然ながらすぐに露見した。その男の挙動から、彼が殺したのでないことは読み取れたが、ではなぜ彼が誰にも相談することも断ることもなく、黙って埋めたのか、裁判所でも大きな議論になった。大抵の陪審員は同情的だった。彼はとても熱心な信者であり、人格的に誰よりも素直なことは村の者であれば皆知っていた。だからおそらくのところ、とても気が動転して――誰の目にも触れさせたくないと考え、一人で行ったのだろうと推論をつけた。しかし合理的な者にはにわかに信じがたい行為だったので、抑圧的な態度を見せないように、彼に丁寧に何度も質問のかたちを変えて問い直した。

 とうとう最後のほうで、ふと思いついたように、その男が言ったことはこうだった。


「ただわたしは――こう思ったんです。この小さな子たちとわたしとの間に、なんの違いがあるのだろうかって。あの子たちは無残に殺されて土にまみれていました。とてもかわいそうで、、、、、。でもわたしは同時にこうも思ったんです。「わたしでない理由はあるのか?」って。それからは夢うつつでした。なんとか自分の服で包んでやって、やっとのことで礼拝堂に来たんです。でも足が止まってしまって、もう抱えているのがやっとで、墓地のなかの空いた場所をみつけると、無我夢中で掘り返して、、、、、、なにか花でも置いてやりたかったけれど、人に会うのがこわかったので、埋め終わるとすぐに自分の家にもどりました。」


                  ***


「きみはどう思う?」

 冬の暖房の用意で枝木を枯らして火を熾すために使えるよう貯めておく場所で、無意味にぽきぽきと枝をいじりながらレイダンは尋ねた。相手は、アイザックという名前の例の青年だが――ふたりはここ数か月でだいぶ親しくなっていたので、ご法度と思えるような話題でも忌憚なく話し合えた。アイザックはいつもの通り口元をきゅっと引き締めながら無表情に仕事に没頭していた。

「一度彼に会いましたけど、別にどうということはなかったですよ。みんな気にしたいだけなんです。きっと何も考えてないはずです。」

「きみも同じく、というわけか?」

アイザックはにこっと笑った。

「誰もがここではそうでしょう。考えたって仕方のないことが山ほどありますよ。何ができますか? 僕らが、ここで?」

レイダンはふと考えこんでこう言った。

「自分は怒っているんだと思う。」

そう言ったきりレイダンは黙り込んでしまった。

 赤く凍えてきた手を口の前にかざしながら、アイザックはその様子をまばたきもせず見ていた。その顔は驚くほど幼かった。






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