一限と二限の間

先ほどの授業で使っていた教科書とノートをしまいながら、私は口を開く

「数学って、何のためにあるのでしょうね」

もう既に次の授業の準備を終わらした藤ヶ谷君に話しかけた

「いえ、何も算数まで否定しようという気はありませんよ、四則演算や分数、面積や体積の計算は必要だと思います。ですが微分積分とかいりますか」

「要る人は要るだろ。将来それを使う職業に就きたい人とな」

「どんな職業ですか、そんな人ごく一部でしょ、専攻させて勉強させればいいじゃないですか。そもそも昔からおかしいと思っていたのですよ、数学に限らずカリキュラムに組み込まれたものは、そういうものだから、と思考停止で受けさせられる。私たちの意志なんか聞かずに。受ける意味なんかも知らずに」

「そこまで分かっているなら早く納得したらどうだ、そういうものだと」

「納得できたら議論のやり玉に挙げてませんよ。私は必要性を問うているんです」

「言っていることは頭の悪そうな中学生のそれだが、ただまぁ、俺も昔似たようなことは考えたな。小学生の頃、音楽や図工の授業って何に使うんだろうってな」

「あぁ、あの辺もよくわかりませんよね」

「あれは小さい内から色々なことを経験して、自分の適性ややりたいことを考える時期だったんだなと思うよ」

「なるほど。確かに中学や高校では技術系の科目は選択ですもんね」

「つまり数学もそういうことだろ、色々経験して適性ややりたいことを探せってことだろ」

「うーん、ならアルバイトのような社会経験とかも授業に組み込むべきではないですか」

「その辺は個人でやれってことだろ」

「むしろ社会人のマナーとかを授業に組み込むべきだと思いません?使うかわからない知識や経験より、大体どんな仕事に就こうとも必要になる知識ですよ」

「確かに少しはそう思うが、それは経験で学ぶ必要があるところも多いだろ、それに通年で教わるには量が少ないだろ」

「おやおや、社会に出ていない若造が言いますね」

「お前も同い年だろ。仮に社会人マナーとかを学生の内から学ぶとしても、数学は削られないと思うがな」

「数学って今日キャラ感がありますからね。四天王を務めてそうです」

「どういう意味だよ」

「学生のカリキュラムにおいて、締めている重要性のウェイトが大きいってことですよ。次点で英語ですね」

「意味わからないが、なんとなく納得はできるな。その次は現代文で最後は歴史か地理ってところか」

「カリキュラム四天王はそんなところですね。尤もそれだけに、数学ってそんなに重要なのかなって思うのですよ」

「真面目な話、数学に限らずこの時期に教わる授業というのは、考え方や勉強の仕方を学ぶ勉強、という側面があるからな。例えば数学なんかは論理的な思考を育むことに重要なんだろう」

「ほへぇ、勉強のための勉強ですか。なんだか嫌になりますね」

「じゃあなんの為の勉強ならいいんだ?」

「…何のためでもピンときませんね。強いて言うなら、テストで良い点数取ったらお小遣いくれるんで、そのための勉強って感じですかね」

「まぁ結局のところそうだよな、色々言ったし、大人たちの色々な思惑はあるだろうが、赤羽の言う通り学校の勉強なんて将来何の役に立たなくても、今役に立てば問題ないと思うな」

何のために勉強している、と問われれば結局のところそうなんですよね。テストでいい点を取るためなんですよね

「ですね。因みに藤ヶ谷君はさっきのテスト何点でした」

「95点。二問落とした」

「勝ちました、私は98です。一問しか落としてません」

勝ち誇った笑みを浮かべたところで、授業開始のチャイムが鳴り、私はあわてて次の授業の準備をした

貰ったお小遣いで何を買おうかな

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