Section5『ヒューマノイド・マニアック』~時系列『現在』~

 傷口の縫合を終えたジョンは、ミラと共に研究所内部へと侵入していた。


 薄暗い廊下をコツコツと歩いていく。二人の立てる足音以外は静寂の空間だ。


「みょうだな……」


 ジョンがぽつりと呟く。監視カメラやセンサーの類などは一切ない通路だったからだ。


 立ち止まり、ミラと顔を見合わせる。彼女の方も何かがおかしいと言った表情だ。


「おかしいよね? 「侵入してください」と言わんばかりのザル警備……なんなのさ?」


「まだなにかあるかもしれない……警戒を怠るな、だ」


 ジョンがやんわりとミラを咎めると、マニアックを構え忍び足で歩く。


「ジョン、あれ……」


 ミラが通路の奥を指差したのはその時だった。赤い光が暗闇の中に蠢いている。


 火災探知機のランプだろうか? とジョンは一瞬思ったものの、漠然とした違和感があった。


 光の色に見覚えがあったからだ。


 ずっとこちらを見据えているように見える光は徐々にこちら側に近づいていっているように思える。


 なんであの光を思い出せないのか。ジョンは釈然としない違和感を拭いきれなかった。


 その時、ふたりの頭上にある電灯が機能することを思い出したかのようにチカチカと光り出した。


 通路の奥も同じで、赤い光の頭上にある電灯が光りだす。それと同時にその赤い光が形のシルエットを浮かび上がらせる。


 ジョンは固唾を呑みマニアックを防御形態に移行させ、構えた。


 電灯がリズミカルに光った後、パッと点いた。


 通路の奥に、宇宙服を着込んだような兵士が戦闘用コンバットナイフを手に持ち佇んでいた。その頭はヘルメットですっぽり覆われ、目の部分だけが赤い光を発している。


 ジョンは思い出した。いま目にしているのが、すこし前に中東で戦った人間兵器ヒューマノイドと同型の兵士だということを。


 着込んでいる戦闘服は、しかし中東で戦ったモノよりもややスマートでスタイリッシュにさえ見える。


「あれ、人間兵器だよね?」


 ミラがガバメント・カスタムを構えながら叫ぶ。


「あぁ、しかし見たこともないやつだ」


 ジョンは返答しながら、マニアックを構え、人間兵器に向かって駆け出していった。


 人間兵器の方もナイフ一本を手に持ち、凄まじいスピードで迫りくる。


 なるほど、とジョンは走りながら思った。戦闘服が痩せっぱちに見えるのは、機動性を重視した結果か。言うならばこの人間兵器は近接戦闘(マニアック)型の兵士というわけか。


 二つのやいばが交わる。ジョンは成人男性の半身程もある巨大な剣マニアックを、そして人間兵器はそれよりずっと小さいナイフでジョンと張り合う。

 鋭い金属音が通路に響く。ジョンのマニアックよりリーチ的にも威力的にもずっと不利なナイフで人間兵器はあしらった。


 ジョンは態勢を立て直そうと、人間兵器の斬撃をかわし、宙返りをしてミラの位置にまで戻る。


「なんなんだ? あいつ……」


「わからない……後ろからも!」


 ミラの一言でジョンは目線を素早く背後に向けた。


 正面にいる人間兵器と同型と思わしき人影が四、五体、ゆっくりとこちら側に迫ってきている。


 ジョンとミラは背中合わせのフォーメーションを取り、相手の出方を窺う。


 完全に囲まれた。ジョンは口中で舌打ちをする。

 いつもこれだ。中東の時もそう……僕はいつも詰めが甘いんだ。監視ドローンやセンサーがなかった段階でどうして敵が刺客を送り込んできた可能性を考えなかった?


 感情を持たない人間兵器たちの赤い目がそんなジョンの心中をあざ笑うかのようにすっと細められる。


 絶望がジョンを支配した。

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