Section3『島に立つ』~時系列『現在』~

 カイルの乗った降下フライングポッドは急速に地上へと接近していた。

 期待と不安が入り混じっている、とカイルは内心にも思う。

 あの島にバーンズがいる。おれの空白の記憶のキーパーソンとなるかもしれないバーンズが。

 考えたところでまた頭痛がする。くそ、精神安定剤を搭乗前に呑むべきだった。


〈カイル准尉〉


 ジョンに無線通信で呼ばれ、カイルは彼の方に無線を向けた。


「なんだい少尉」


〈問題発生です。ポーン・ゼロワンとポーン・ゼロスリー、そしてルークの反応が消えました〉


 ジョンは義務的に言葉を放つ。姉御肌のジェーンと気弱そうなどもりのレイ、そして人格者のリッチーの顔が頭に浮かぶ。


「ジェーンとリッチーが? レイだって初戦で始まる前から墜落死なんて冗談でもないぞ」


〈死んだとは限りません。……そして生きているとも答えきれない。生きていることを祈りましょう〉


 ちぇっ、マークスはちゃっかり残っているのか。カイルは舌打ちしたい気分だ。


〈あと、一分後に島に降り立つ。そこで仲間を探しつつルートに従い研究所に行きましょう〉


 了解だ、と短く答えた。


〈おっと、ポーン・ゼロツーとクイーンの反応も途絶えました。や……い……で…………〉


 ジョンの通信はノイズが濃くなり、しまいには途絶えてしまう。


「少尉殿? おい! ジョン!」


 くそったれめ、予定ポイントに到達できるのはおれと、よりにもよってハーヴ・マークスかよ。


「無事でな……ヒビキ隊長」


 もう聞こえないだろうが、カイルはノイズの鳴り響く無線にそう吹き込む。




 カイルを乗せたフライングポッドは、急速に目標エリアへとターボジェットから火を噴かせながら近づいていた。

 目標へ一〇〇〇メートルを切ると、冷却剤がエンジン内へ流れ込み、速度を徐々に落としていく。

 目標地点上空に着くと、先頭からガスを出しながら表面 (中にいる搭乗者を寝かせる状態)を上にしてホバリング状態となる。そのままゆっくりと地上に降りた。


 そのすぐ横でハーヴのポッドが同じく着陸する。

 花弁が開くがごとくしなやかに、双方のハッチが開放された。


 衝撃緩和ショックアブソーバーのクッションが萎えしぼんでいくことを確認したカイルは、ぬっとその身を起こす。

 横に目をやれば、不機嫌そうな金髪が死んだゴキブリでも視るような目で睨んでいた。


「生きてたのかよ、クソ漏らしくん」ハーヴが舌打ち混じりにつぶやく。


「おれはおたくが生きていたことにびっくりだ。墜落することを祈っていたんだが」カイルも皮肉を返した。


 ハーヴはケッと嗤うと、ポッドから出た。その右手には見たこともないような拳銃が握られている。ハーヴの専用パーソナル武器ウェポン『K.キラー』だ。


「共に行動するしかないようだが、足を引っ張るなよ? もしそうなるならまことに生憎ながらこいつのカモにするからな」


 ハーヴはKキラーを掲げるように見せ、その後カチッと遊底スライドを引き安全装置セーフティを外す。


「こっちのセリフだ、いやみ野郎」

 カイルもポッドから強化狙撃銃レジェンドを引っ張り出しながら怒鳴る。


 二人は睨み合ったあと、森の中に進んでいった。






 ヴィック・バンの要塞アジトの武器庫。

 そこにはずらりと並んだ人間兵器ヒューマノイドたちが固定具に繋がれていた。

 カイル達が中東で遭遇した人間兵器よりもスマートな外見ではあったが、宇宙服を着せたようなルックスは変わらなかった。

 マニアック・タイプと呼ばれる、近接戦特化の人間兵器、そのプロトタイプであった。


「目覚めろ、出番だぞ」倉庫内のスピーカーからジャック・フリンの声が轟く。


 その一言で生命いのちが宿ったかのように、人間兵器ヒューマノイド達は一斉にヘルメットの奥に目のような赤い光を輝かせた。

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