第5話

 新学期が始まる日。


「ねえ、スカート短くない?」


 変わらず真耶は瞬に尋ねた。


「短くも長くもないけどちょっと短いくらい」


「えっ短いの? 困ったなぁ」


「最適解がわからない」


 女子中学生の心境は複雑怪奇である。

 そうこうしている間に家のチャイムが鳴った。


「結子だ! 急がないと」


 洗面所に駆けていく真耶の代わりに、瞬が玄関の扉を開けた。


「おはよう」


「おっはよー」


 5分後、真耶の支度が整い、三人で道を歩き出した。


「ねぇ結子。スカート短くないかなぁ」


 歩きながらまだ裾を気にしている。


「平気だって。私と同じくらいでしょ」


「うん。確かに」


 結子が上手くフォローしてくれた。やはり同じ女の子の意見だと素直に受け止められるのだろう。瞬は横並びに仲睦まじく歩く真耶と結子の少し前を歩いた。

 そして例の交差点に差し掛かる。

 耳を澄ます。ふかしたエンジンの音。聞こえる。来た。

 猛スピードで近づいてくる黒いバイクを瞬の目がとらえた。


「あぶない!」


 瞬は両手を広げて真耶と結子の歩みを制した。

 バイクは高いブレーキの音を響かせて交差点のど真ん中に止まった。周囲から非難の意味がこもったクラクションが鳴る。ライダーは体勢をたてなおし、早急に走り去った。


「なにあのバイク。あぶなー」


 結子が口をとがらせる。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 真耶が瞬の背中からぴょこっと顔を出す。心配そうに瞬を見上げていた。


「うん。大丈夫。真耶は平気か?」


「うん。私は平気」


 よかった。見たところ傷ひとつない。真耶は死ななかった。

 瞬は真耶を守ることができた。


 しかしその日の放課後、真耶は下校途中に同じ交差点でトラックに撥ねられて死んだ。


 わけがわからなかった。


 死は回避されたのではなかった。遠ざけられただけだった。

 可能性の収束。

 瞬の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

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