第16話 変化のための決断

 それから二日たって、遊園地に行く約束をした日になった。 


 「なんかこの感じ懐かしいな。」


 二人で遊園地に向かいながらこれまでのことを振り返りながら歩いていた。



 空き教室にたまっていたり、遊園地に行ったり、お泊りをしたり……



 今回は14時くらいに集合したので、観覧車だけ乗って帰ることにした。前回来たときは春特有の寒い風に吹かれていたのを覚えているが、今は冬だ。もっと寒い。


 緩やかな傾斜を登り、観覧車にたどり着いた時にはもう夕暮れだった。


 「懐かしいなこの夕暮れ。」

 「えぇ。」


 前に来たときはもっとテンションが高かったはずの紗耶香さやかが今日は妙におとなしいので、どうも調子が狂う。

 観覧車に乗り込んでしばらくして二人が同時に口を開いた。


 「あの。」


 「そっちからどうぞ。」

 「いいえ。私の話は大したことないからあなたから話してちょうだい。」


 そういわれては仕方がない。あまりにも譲り合いすぎるとお互い何もしゃべらずに終わってしまう。 



 これまで怖くてずっと自分の気持ちを隠してきた。いや、自分で気づかないようにしてきた。だが、勇気を出すなら今しかない。


 俺は外のきれいな夕暮れを座りながら見ている紗耶香に体を向けた。


 「紗耶香さん。」

 「何よ。改まって。」



 自分に負けそうになる。



 心臓の鼓動で相手の声も聞こえない。



 でも今言わなければ絶対に後悔する。



 「好きです。付き合って下さい。」


 言った。この関係が壊れるのが怖くてずっと隠してきた言葉を。


 少し静かな時が流れ紗耶香が口を開いた。


 「気持ちはとてもうれしい。でも少し待って。答えはそれからでもいいかな?」

 「うん。」



 観覧車のゴンドラは気まずいのは嫌だと言わんばかりに俺たちを吐き出した。



 気まずい空気を連れながら、俺たちは家路に着いた。


 


 ちなみに火星へは人々を公平に選び、移住させることになった。


 俺たちはというと今回の一件での行動力が評価され、二人とも移住権が認められた。紗耶香からの返事は気になるところだが、俺はとにかく荷造りを進めていた。



 もともと家にあったものを使わせてもらっていたものが多数あるので本当に持って行っていいものなのか自分の中で葛藤している。


 この葛藤はかなり精神的にこたえるのでゆっくりしか荷造りが進まなかった。


 

 そんな中、自動ドアになっている家のドアから音楽が鳴った。俺は壁を一撫ひとなでし、誰がいるのかを確認しようとした。


 紗耶香⁈


 なんとドアの前に立っていたのは紗耶香だった。


 俺は意識せずに紗耶香を避けていたのだろう。それは紗耶香の顔を見たときに感じたなつかしさが物語っていた。


 俺は今日告白の返事が返ってくるのかもと不安、緊張、期待が入り混じった複雑な感情を抱きながらドアを開け、中に招き入れた。


 

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