第6話 俺なりの答え

 未来に来る前に比べて登下校は圧倒的に楽になった。前まではバスに乗って登下校を繰り返さなければならなかったが、今は徒歩で帰ることができるしそんなに時間もかからない。


 俺は徒歩で下校しながらさっきの叶井かないさんの話に何と答えるか考えた。




 「やっと来たじゃない。少し遅刻じゃない?」

 「すまないな。叶井さんの話のせいでちゃんと寝れてないんだよ。授業中に居眠りしちまったから呼び出し食らってしまった。」

 「家門やもん君らしいじゃない。それで、結論は出たの?」

 「ああ、もちろんだ。」


 俺は昨日の夜、ベッドで寝転がりながら考えたんだ。もしこの話にのらなっかたら、デメリットもメリットもない。でもこの話に乗ればメリットはある。それに加えて一番の決め手は叶井さんと一緒にいる時間が伸びることだ。


 「叶井さん、一緒にやろう。大勢の人々を動かして戦争を止めるんだ。」

 「まさか、あなたはこの話には不参加だと思ったわ。じゃあ作戦を考えましょう。」


 俺はさっそく叶井さんと作戦を考えた。


 作戦といってもそんなにきちんとしたものじゃない。俺たちにできることは限られているから、問題はそれらをどれだけ効率的に組み合わせることができるかだ。


 毎日のように放課後は空き教室に集まり、大判おおばんの紙に考えを書き込んでいった。人間心理学も少し勉強した。そうして気づいたころには一つ学年が上がっていた。


 「やっとできたー。」

 「長かったな。紗耶香さやか。」

 「本当よね、学校がない日まで集まって考えたんだから。」


 俺たちは長い時を一緒に過ごしている間にいつしか下の名前を呼びあうようになった。


 それに出会った時とは違って、敬語じゃなくなった。たくさんのことを話し合っている間にとても仲良くなった実感がある。


 「あとは作戦を実行するだけね。」


 そう言って俺たちは計画制作最終日を終えた。




 とうとう計画を始める時が来た。俺たちは様々な分野に関すること投稿するアカウントを複数作り、いろいろな種類のSNSでフォロワーを増やし続けた。


 二人分のすべてのアカウントのフォロワーを合わせると世界各国の人口の四分の一に届こうかというくらいまで迫っていた。


 高校二年の俺たちは受験勉強にそれほど追われている身ではなかったので冬休み中に二人で集まり、計画を始めようと約束していた。自分の素性が少しでも明らかになるのは面倒なので、今回も集まるのは紗耶香の家になった。


 「計画の準備は大丈夫ね。ようやくこの日が来たんだから。夏彦なつひこもわかっている通り失敗は許されないわ。」

 「もちろんさ。」

 「じゃあ始めようかしら。」


 俺たちの計画の第一段階は、あらかじめフォロワーを増やしておいたたくさんのSNSに同じ趣旨の文を投稿する。


 そうすることによって少しでも多くの人に火星に平和的に移住権を求めようという意見を伝えて、拡散してもらうためだ。


 “このままでは火星との戦争になってしまいます。今の地球の戦力で勝つのは難しいです。平和的に移住権を求めようとしないアシダー党がこのまま政権を握り続けると必ずや戦争になります。だから僕たちと、私たちと、アシダー党に頼ることなく火星に移住権を求めましょう。この活動についてはこのアカウントで報告、呼びかけをしていきます。協力してくださる方はフォローをしたままで待機してください。”


 この文をいくつもあるアカウントに投稿し続けた。フォロワーがたくさんいた事もあり、一日で急速に拡散された。

 

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