あの夏のかおり

外道禅太郎

プロローグ

どこに出すか_プロローグ

>外に出すのが愛なのか中で出すのが愛なのか迷って出した(佐々木あらら/クララ)


某短文呟きサイトのbotからタイムラインに流れてきた。

今から15年以上前に、日テレ系で土曜9時のドラマ枠で放送されていた、

伝説の教師という、中居正広と松本人志、ダブルキャストの学校教師の物語を

ふと思い出した。

その中で松本人志演じる、教師が性教育の一環としてコンドームの使い方を教える

授業中、違を唱えるシーンがあった。


「コンドームの使い方が性教育?アホぬかせ、それならコンドームに穴を空けるよう

教える事こそが性教育じゃ。」


セリフまでは鮮明に覚えていないのだが、このような、松っちゃんらしい、皮肉を込めた

アンチテーゼの内容だったことを覚えている。


ぼくはそのとき、若干20歳の年で誕生日前だから、ギリギリ19歳で初めて出来た彼女と

一緒にラブホでこのドラマを観ていた。

初めての彼女はぼくより10歳上だった。

今も住む、故郷から遠く離れたこの地には19歳の時、仕事でやってきた。

最初は1ヶ月間だけという契約の派遣社員だった。


その派遣先の企業で知り合い、この地に来るのが初めてというわたしに、その女性、裕子は、

近辺を案内してくれるといい、仕事終わりに食事に誘われたのがキッカケで付き合うことになった。

最初は1ヶ月という期限付きだった仕事が、3ヶ月、6ヶ月、1年と延々に更新を繰り返す、

派遣という働き方にはよくあるパターン。

遠く離れた場所からの出張扱いだったので、会社の借り上げたホテルに暮らした。


6ヶ月を過ぎたあたりで、無尽蔵に経費を使うことが難しくなったので、現地採用の人間へ

切り替える予定があると、金主から通告されたのを期に、自前でマンションを借り、

この地の正式な住人となって仕事も更新してもらうことに成功した。


人生初彼女たる裕子との交際は順調で、金遣いの荒かったわたしの将来を案じてか、

給料の振り込まれる口座の通帳とカードを預かってくれ、おこづかい制で生活した時期もあった。

何かあるたびに「ずっと一緒」という魔法の言葉をチラつかせながら、このまま裕子と結婚する人生も

悪くないと思ったりもした。

転機が訪れたのは、交際から5年を過ぎた頃だったか。


勤務先はとある財団法人だったのだが、そこで行われる事務作業に必要なOAシステムを納入する

メーカーから、保守点検のために常駐する、出向社員を装うかたちで、実の身分は派遣社員という

なんとも詐欺じみた仕事だった。

その分、給金は若干ハタチの若者には持て余すような金額で、その後、会社員として何社かを

渡り歩いてきたが、往時が最高年収記録だったことは今も塗り替えられてはいない。

財団法人であるがゆえ、残業などをするものなら上司は、といってもわたしの身分はあくまで

機械メーカーからの出向者なので、お客さんにあたるが実質のボスである、から目くじらを立て

叱られた。

わたしは出向の駐在員であるから、ビルの施錠はボスが担っており、ボスの帰宅はすなはち

その日の業務終了を意味した。

ボスは、財団法人が入居するビルの隣にある、公益法人で部長級で定年を終え、

天下りとしてやってこられた方だった。

その公益法人の母体は、国の省庁だったが、世相的にも色々な変化があり、母体であった省庁は

闇に葬り去られ、現在は国の省庁からは切り離された。

そして、独立行政法人に変貌を遂げている。


話を本筋へ戻すと、17時半の定時には、何が何でも退社しなければならない状況だったので

夜に暇を持て余していた。

裕子は実家暮らしで一人っ子の箱入り娘だったため、お泊まりをしたのは大晦日から

元旦にかけてくらいなものであった。

また、裕子は付き合って3年経った頃に転職をしていた。


ゆえに、平日一日と土日のどっちかに一日、週二回デートをすれば、17時半に

わたしが仕事を終えたタイミングで、電話を一本入れて変わりばえのない今日の出来事を

報告すれば、あとの時間はわたしの好き放題だった。


そこで、職場の近辺のバーへ18時前から夜な夜な出入りするような小僧へと変貌を

遂げていったのである。


深雪(みゆき)と初めて会ったのは、よく行く顔なじみのバーで、深雪の30歳の誕生日会を

している場に、何の事前告知もなくたまたまかち合ったことがキッカケだった。

その時、わたしはすでに24歳となっていた。


先に結論を言えば、クズでゲスな話でしかないのだが書き留めておく必要がある。

そう思えばこそ薄れゆく記憶を掘り起こさなければならない。

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