昔話 その1

 名もない墓地には必ず白い花が咲くそうだ。

 ベツレヘムの星。イエス・キリストの誕生を祝福した花。別名でユダの許しとも言われている。なぜって、ユダは金でキリストを売っただろう? それを後悔したユダは金貨をユダヤ教に返そうとした。けれどそれを彼らは受け取らず、冷たく言い捨てた。

 それはお前の抱えるものだ。

 自業自得。確かにそうだな。けれどユダはそれに耐え切れず自ら金貨を投げ捨て、首をかき切って死んだ。そんなことをするくらいならしなきゃいいものをとお前は言うか? なんだ、言わないのか。

 ユダはキリストを誰よりも尊敬し、敬愛するから裏切った。えんえんと己を商人と見下していた? ふーん、そうか。そうだな、ユダだけは常に金のことを考え、金貨の話をしてはキリストを辟易させた。けれど現実的であり、誰よりも支えようとした人物だった。

 話を戻そう。

 ユダの金貨を持て余した者たちが仕方なく職人から土地を買い、そこを墓地にした。

 どこにも行き場がない、追放された者たちの居場所。

 裏切者のユダはそうして自分と同じものたちの居場所を作り出した。

 そこには必ずベツレヘムの星が咲くそうだ。


 俺たちもいずれはそこに行くと思うか? 家族なんていないし、ましてや生き場もない。

 ここだけが俺たちの居場所だ。ここにいる者たちはみんなそうだ。生き場もなく、かといって人の世では生きられない。人を殺して、明日死ぬかもしれない。死ぬことだって仕方がないと笑う俺たちが行き着く先。

 

 裏切り者。お前はどうして俺を裏切ったんだ? あぁ、答えなくていい。これは独り言だ。

 ただな、お前の死体にもベツレヘムの星は咲くのか?

 ウジ虫みたいなお前にも神様は許しを与えるのか?


 なぁ

 ユキサキ。

 人殺しの裏切者め、お前のせいでみんな人殺しだ。

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