逃亡の行末は魔王軍幹部とのタイマン勝負に

律儀に魔王軍幹部となんて戦ってられっか!!! 俺は死にたくないんでね!!!


俺はそう言って森の中を一人で走る。ガシャガシャと鎧がうるさく、まず鎧を装着するということ自体に違和感もあるのだが、これも我慢だ。

ちなみに重たくはない。これも聖武器、聖武具のおかげだ(模造品だけどな)!!!


これをどこかで売って、俺の資金源にしてやる。力は十分の一とは言え、めちゃくちゃ使える事には変わりないからな。

あぁ! 夢が膨らむぜ!!! ついでにポケットも膨らんでいる。宝物庫から白金貨をパンパンになるまで頂いたしな(泥棒だ)!!!


唯一の心残りとしては、エミーリオにお別れの挨拶を言えなかったことだけど……。

まぁ。仕方ないよな! だって挨拶したら俺が死ぬ運命確定しちゃうし!

あいつも俺が生き延びる方が喜ぶって! 絶対に(確信)!


と、俺はその場合エミーリオが死ぬ事を失念しながら、そんな事を考えてウキウキの気分で森の中を走って逃亡をしていた。


***


俺が王城から森の中に入って逃亡を開始してから3分後の事だ。俺は無事、森を抜けた。


……ちょっと待ってぇぇぇぇっっっ!?!?!?

あれ? ここって森だって聞いてたんだけど!?!?

 なんで歩いて3分で草原に変わるような場所が森って呼ばれてんの!?!?!?

てか草原に抜けちゃったんだけど!!! 確かここって魔王軍幹部が現れた場所って話じゃ!!??


俺はそう考えて周りを見渡す。


右に見えますわ〜、王国の兵士たち約20000人でごさいま〜す。

左に見えますわ〜、牛の角を生やし、体全身が筋肉質、黒色の体毛を全身に生やしたミノタウロスの、魔王軍幹部(多分)となりま〜す。

そして肝心の俺は〜、双方が睨み合う場所の真ん中に、颯爽と登場して(るみたいな感じになっちゃって)ま〜す。


はい、終わったぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!

どう見ても両陣営が驚いてますよ!!! ザワザワ効果音が聞こえるもんっ!!!

見た目完全に勇者だからねっ!!! 最高戦力(表向き)が一人で真ん中にポツンといる。

いやどう考えてもおかしいだろっ!!!


よし、森に引き返そうっ!!! 今ならまだ間に合うかもしれないしっ!!!

まて、もし追っかけられたら……俺絶対に鎧着てるから逃げれないじゃんっっっ!!!!!

鎧を脱ぎ捨てる? 馬鹿言え! 俺が金(に換金できるもの)を目の前にして、置いてくなんてする訳がないだろう(断言)!!!

……じゃあどうすんだよ!?!?!? 知らねぇよっ!!!!!


「ふむ。誰かと思えば我がボコボコにした勇者(笑)ではないか」


俺は(恐ろしすぎて)ゆっくりと振り向く(周りからは余裕があるように見える)。

そこにいたのは先ほどまで数百メートルは先にいた、魔王軍幹部(仮)のミノタウロスだった。


「あ? 誰だお前? 消えろ」

《意訳》え? どちら様でしょうか? 私と面識はありませんね。お互い何もないように別れましょうよ!!!


俺はとっさに号令となった勇者ブシで対応する。


「ほう、その様子だと少し見ない間に、ずいぶん強くなったようだな。前とは雰囲気がまるで違う」


ミノタウロスはそう言ってニヤリと口元を歪める。その目は自虐心で満ちていた。


「当然だ。馬鹿か貴様は? 今の俺がお前と戦えば、一瞬で決着はつくぞ? やめとけ。失せろ」

《意訳》当たり前だろがっ!!! 前が本物で今はただの村人だぞ!

てか今の俺が強くなったように見えるとか、お前の目は節穴だろ!

今俺が戦ったら瞬殺されるぞ!? だからお願いします見逃してくださいっ!!!!!


俺がミノタウロスの態度に挑発的な態度でそう言うと、ミノタウロスの顔から笑みが消えた。


「……ふむ。ではこの草原の中心部で決着をつけようではないか。一対一の決闘だ。観客は双方の兵士たちで良いな?」


ミノタウロスは魔王軍幹部でありながら、騎士道精神みたいな正々堂々の精神に溢れていた。

こいつの方が勇者っぽいぞ? と言うか良くないよ!? なに勝手に仕切ってんの!?


「異論はない。だが、二つだけ質問がある」


「なんだ? 我に答えられる事なら答えよう」


俺の要望に、ミノタウロスは俺と戦えるのが嬉しいのか上機嫌でそう答える。

そう、みんなが考えている通り、俺が聞きたいことはただ二つ!


「お前が魔王軍幹部か? そして名前はなんだ? 決闘で倒す相手のことぐらい、知っておかないとな。半日ぐらいは心に留めておこう」

《意訳》まず、こいつ誰っっっっっ!?!?!?


「……あぁ、俺は魔王軍幹部の一人。ミノタウロス・キングのミノスだ。…………一応我、前回お主を倒したうちの一人なのだが?」


ミノスは俺を呆れたように見つめながらそう言った。

……え、こいつ勇者を倒した魔王軍幹部の一人なの!?!?!?


「そんな記憶はない(マジ)」


「……ふっ、では再び、今度は絶対に忘れられないようにしてやる。決闘は一時間後だ。短い時間だ。知り合いとの別れを済ませておけ」


「えっ? ちょ、それはこまーー」


「ではさらばだ」


ミノスは人の話を聞かずにそう言って、一度魔王軍の陣へと帰って行った。


……詰んだわ。俺詰んだわ!!! 終わったわ!!!

だって兵士や騎士たちを自由に使えるなら、その隙に俺逃げるよ!

でもさでもさ! 俺が! 一人で! タイマンだよ(タイマンは普通一人)!!!

無理に決まってんじゃん!!! あいつ何勝手に決めてんだよ!!!


***


俺はその後兵士たちに追われて逃げた。しかし呆気なく捕まり現在、騎士団の隊長(『聖域サンクチュア十二騎士トゥエニナイツ』に選ばれ損ねた人たち)である8人に、俺と魔王軍幹部の一対一の決闘になった事を伝える。


「安心せよ。我が闇に封じられし禁断の力を持って、魔王軍幹部を屠って見せよう。お前たちは魔王軍とどちらが勝つかの賭けでもして遊んでおれ。死傷者も一人しか出さない」


俺がそう言うと、騎士長はポカーンとしていたが、何か反応をせねばと思ったのだろう。

いくつかの質問をしてきた。


「闇の力とは一体? 聖なる力ではなくてですか?」


「秘密だ」

《意訳》俺も知らねぇよ!!!!!


「禁断と言っていますが、危険ではないのでしょうか?」


「大丈夫だ。任せておけ」

《意訳》だから知らねぇって!!!!!


「修行したとはいえ、一度負けている相手です。本当に勝てますか?」


「言わなくてもわかるだろう?」

《意訳》無理に決まってんだろっ!!!


「騎士団が賭け事はいかがかと」


「勇者風ジョークだ。それくらい楽感視しておれと言う意味のな」

《意訳》これは俺も後でそう思った。けれど指摘しないのが普通だろ。俺の気持ち考えてくれよっ!!! 悪いけど勇者、お前を道連れにするぜ!!!


「あのミノスから決闘を申し込ませるとは。さすがです!!!」


「褒めるな褒めるな」

《意訳》ハードル上げるな馬鹿野郎っ!!!


「死傷者が一人とは……。あのミノスに勝つ宣言ですか。さすがは勇者様ですね」


「あぁ、知ってるさ」

《意訳》そう、死傷者は俺です。負ける宣言です。勝手に勘違いしてんじゃねぇよ!!! そしてだからハードルを上げるなって、何回言わせりゃ気が済むんだ!!!


騎士長たちからの質問が止む。


……う〜ん、まだ不安要素が頭をよぎっていそうな顔だな。俺ができることなんてもう無いぞ? 俺ができるのは弁論ぐらいだし。

それもただの村人の知識程度の。……無理だな! これを切り抜けることができる頭があれば、俺こんな状況になってないしっ(断言)!!!


「つまり、全部俺に任せておけと言う事だ」


最後に俺はそう言って今いるテントを去る。……あれ、俺の泊まる場所どこ?

知り合いもいないので、騎士長たちのテントに戻って場所を聞いた。

……すげぇ恥ずかしかったよ!!!

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