勇者(偽)帰還記念パーティ、そして混浴

王城の一部屋。この場所に一番相応しくない者が今、大声を上げた。


「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」


俺だ。


「落ち着いてください」


魔王軍幹部の目撃情報が耳に入り、俺は防音対策のなされた部屋で発狂していた。

アリアさんはそんな俺をゴミを見るような目で見てくる。

だから俺、Mじゃないんだってば!


「落ち着け!? どう落ち着けと!?」


「向こうから来てくれんですよ? いろいろ手間が省けるじゃないですか」


……つまり、馬車代や馬や俺たちの食糧代とか、時間とか色々ってことだよな?


「アリアさんマジで言ってるんですか? つまり、俺の死期が早まるって事ですよ!」


「それをさせないために、私たちがいるんです。『聖域サンクチュアリ十二騎士トゥエニナイツ』が」


……アリアさん、マジカッケェ!


「アリアさ〜ん!」


俺は嬉しくて泣きつこうとする。アリアさんはそれをスッと避けたので、俺はそのままアリアさんが座っていた俺のベッドに飛び込んだ。

あ、いい匂いがするんだけど。これがアリアさんの匂い? これはこれでアリかも。


「……いやいや、そうじゃなくって『聖域の十二騎士』の人たち、今アリアさんとヘルティスしかいないじゃん!?」


俺はベッドに顔を埋めるのを一旦やめ、アリアさんにそう言う。

現在、この国の最高戦力である『聖域の十二騎士』のうち、残っているのは俺のお目付役であるアリアさんと、俺のストーカーであるヘルティスだけなのである。


「少し到着が遅れているらしいんですよ。なんでも、盗賊団が大量に出現している、とのことです。あれ? そう言えばあなたが盗賊団をほぼ壊滅させたので、そこの縄張りを巡って他の盗賊団が争っているとの情報も。……あれぇ?」


なに? ……そう言えば、確か盗賊団の宝を俺の懐に入れようとして(結局王都の国庫に入ったが)、襲ってきた盗賊団を壊滅させたんだったな(アリアさんが)。


「……え? 俺のせいですか?」


「はい」


俺は事実確認をしたつもりだったが、アリアさんは有無を言わさず即答をした。だったら俺は抵抗するぜ、口で(チキッた)!


「アリアさんが倒したのにでーー」


ズドン!


「何か言いましたか?」


「言ってません」


俺の横を何かが突き抜けた。……別にそれにビビったわけではない。

俺は男で大人だから、女には優しくしているだけだ。決して尻に敷かれているわけではない。


「あ、そうそう、昨日ヘルティスがモブさんのベッドに『私の愛を受け取って♪』って言いながら、自分のお気に入りの香水を振っていましたよ」


「おえぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」


最悪だ! 俺のドキドキとキュンキュンとムラムラを返せ!

…………あ、香水なら別に良いか。ついついヘルティスのする事は全て拒絶反応してしまう。……今回だけだからな! ……これが良い香水の匂いとアリアさんの匂い……すぅぅぅぅぅっっっ!!!


ボカン!


アリアさんに殴られた。


***


その日の夜、この国全体でパーティをすることになった。

……いや、なんでやねん! お金無かったんじゃ?


なんでも、勇者が帰ってきたので、そのお祝いだとか。……いや、俺のせいかよ!?

まぁ確かに、それを祝わないと国に不審がられるって王様の意見もわかるよ。


でもさぁ……俺の隣になんも知らないエミーリオを置くって間違ってるよ!? 絶対に!!!


「勇者様、どうぞ」


「あぁ、助かる」


エミーリオは俺のコップの水が無くなるとすぐに入れてくれる。

本当にありがたいんだけど、幼女に入れさせるってなんか罪悪感!

しかも俺、本物の勇者じゃ無いし!!!


て言うか王様も微笑ましげにこちらを見ている。あ、エミーリオが俺から視線を外した。

王様がこちらを忌々しげに、今にも殺すって形相で見ている。

さすがは国のトップ。お顔の切り替えがお早いことで。


……俺の癒しはエミーリオだけだ。て言うか、人間からも魔王からも狙われる存在って……。

俺詰んでるよね? ずっと思ってたけど、これって確実に詰んでるよね!?


「ゆうしゃしゃま〜! ほぉらぁ〜! 私のしゃけ(酒)が飲めないって言うのぉ〜?」


アリアさんがうざい。確実に酔っている。まぁ、俺の事をモブって呼ばないあたり、職務に忠実なのはいい事だろう。

俺の頬を指で刺したり引っ張ったりも我慢すれば良いだけのこと…………うぜぇぇぇぇっ!!!


……あ、そうだ。確か下剤入れてやろうって思ってたんだ。

俺はアリアさんの目を盗んで、こっそりと俺の村で作られた、即効性で水にすぐに溶けるタイプの下剤を入れる。


普段のアリアさんなら気づいただろうが、今は酔っている最中だ。

誰も気づいていない。…………うん、エミーリオに思いっきり見られてたようだ。

だって俺と下剤を入れたコップとアリアさんを順番に見てるんだからな。


しーっと俺は指を当ててエミーリオに言わないように教える。

エミーリオは「はい、任せてください!」と言わんばかりに両手を胸の前でぐっと握る。

って、だからそんなことしたらバレるでしょうがっ!

……あのポーズ、アリアさんがやったら胸がめちゃくちゃ強調されて良いんだけどなぁ……。


お、ヘルティスが貴族の淑女と思わしき女の子たちと話をしている。俺も混ぜて欲しいもんだ。もちらんヘルティスは抜きで。

まぁ、確かに顔はイケメンだし、体つきも俺より明らかに良いよな。身長も2メートル近くあるし。

でも体は筋肉ムキムキ、顔はイケメンって絶望的に合ってないよな。それに……あれで女だし。


なんて考えていたがあいつ、めちゃくちゃ会話が盛り上がってるんだよ。

顔目的なら性格で破錠してるだろうし、あいつ中身があれだから、会話も合わせやすいんだろうな。

……俺は男(女だけど)に迫られるなんて、死んでもごめんだけどな!


あ、女の子が去っていく。ヘルティスはその子たちに手を振っていたが、自分を見る俺の視線ことに気づいた。

そのまま投げキッスを俺に飛ばす。……うぎゃぁぁぁぁっっ!!!!!


***


ザバーン!


「あぁぁ〜〜、疲れたぁぁぁ〜〜!」


俺はパーティが終わりすぐに風呂に入った。ずーーーーーーっと、王様に殺気を飛ばされ、エミーリオで癒され、ヘルティスでゾッとして、アリアさんにヒヤッとさせられたせいで、汗をダラダラかいたからだ。

着ていた高級そうな服は冷や汗まみれで、一度洗い直さないといけない。

高級な生地が無駄に痛むのはNGだが、俺のせいではない。そう、仕方がないのだ。


……アリアさん入ってこないかなぁ。いや、分かってるよ。入ってくるわけないじゃん。

でもさぁ、何かの間違いで来ないかなぁって。向こうのミスだから、こっちを責めにくいってのも良いよね。

これは男の夢でしょう? ねぇみんな!!!!!


ガラガラ〜!


きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!


「モ〜〜ブく〜〜〜んっ!」


いやぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!! ヘルティスゥゥゥゥゥ!? てかここ男湯! なんで来たんだよあんた! 女が男湯に入ってくんなよ(さっきの妄想がブーメラン)!


「来ちゃった……てへ」


そう言いながらヘルティスが入ってきた。体はタオルで隠してある。そしてタオルの下あたりを引っ張っている。絶対見ねぇよ!


「もう、モブ君のえっち……」


「だから見ねぇよ!」


そう突っ込んだ。こいつと喋ってると疲れるな。さっさと上がろう。俺はそう考えて湯船から上がり、浴場から出ようとする。


「背中流してあ・げ・る♪」


「結構です」


俺は腕を掴んで赤面するヘルティスを振り切り、浴場出口の扉に手をかける。

すると扉が勝手に開いた。自動ドア?


ガラガラ〜!


「ふ〜む。やはり疲れを取るには風呂がーー」


そんなセリフを言いながら王様が入ってきたよ!? さっそく俺を見つけて殺気飛ばしてくるんだけど!? もうやだこの場所!!!


「失礼しまーー」


「待たんか。……モブ君、一緒に風呂入ろう」


ついさっき入ったばかりなんで遠慮します。……とは言えない雰囲気ですね。

はいはい、入りゃ良いんでしょう、入りゃ。俺はもう一度風呂に入ることになった。

王様、俺、ヘルティスの並びだ。……ヘルティスは消えろ!


「モブ君。君がただの村人でありながら、こんな事をさせている事には心が痛むよ」


嘘つくなよ。顔が緩みっぱなしだぞ。絶対俺の不幸を喜んでるだろ。

て言うかヘルティスがここにいる事はスルーなんだ。


「話は飛ぶが……娘のことをどう思う」


本当に飛ぶなぁ。エミーリオ? 癒しの天使だろ。


「天使です」


「殺すぞ、若造が」


なんで!? え、俺何かミスった!? 褒めたよね!?


「エミーリオは女神じゃ、このたわけ!」


あぁ、そっちね。……いや、どっちでも良いよ。


「……あの子も年頃じゃ。男の目利きも出来とらんが、それもまた経験じゃ」


……何が言いたいんだ? いや、俺を馬鹿にしてることだけはわかるぞ。


「……じゃが、分かっておるな? 間違いだけは絶対に犯すなよ? 犯したら……お前と親族と住んでる村人と村人の親族の首が飛ぶ事になる。いいな?」


ブンブンブンッ!


有無を言わせぬ迫力に押し負け、俺は即答で、首を縦に振った。

間違いとかなんとか言ってたから、多分勇者の仕事をミスったらお前の知り合い……の知り合いまで殺すって脅されてるって事か。

……それってただの暴君じゃねぇか!!!


その後も色々あった。ヘルティスが背中を流そうとしてくるので、俺は水を飲むので後で一緒にサウナ入ろうと言っておいた。

俺は癒しを求めて風呂に入ったのに、入る前よりも疲れると言う結果になってしまった。そして風呂から上がる。

ベッドでアリアさんが寝てないかな? それなら、ごうほう(合法)だ、ごうほう!


部屋に戻るが誰もいなかった。俺はベッドに潜るが、誰も潜っていなかった。

……まぁ、ヘルティスがいるよりはマシか。そう考えて、俺は眠りにつき……たかったが、全然寝れない。


誰かが俺の部屋を訪れることを期待しているからだ。アリアさんが本命。

俺を案内してくれたメイドさんが次点。エミーリオは……まぁ、ダークホース枠で。

ヘルティス? 俺に男(女です)の趣味はない。てか来たらぶち殺す!


そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠ってしまったようだった。


そして次の日、魔王軍の幹部が王都の近くの平原に現れたとの情報が入った。

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