第2話「ゴブリン討伐」

 クリス視点



 これもしかすると友達にする相手間違えたのかな...ははは...

 い、いや、ダクネスは冒険者仲間がいなくて困っていて、あたしに毎日祈りを捧げてくれてたんだ!そこはあたしがこの子を救わなきゃ!

 けど、なんか、予想外だったな...ははは...



 ダクネスにいきなり変態発言をされたクリスは当然の様に困っていた。


「ん?どうした?」


「い、いやなんでもないよ?まあ、とりあえず無難なクエストでも受けてみない?初めて組む訳だし、簡単にこなせそうなやつで」


「う、うん...。私的には一撃が重くて気持ちいいモンスターが良いのだが...。仕方ない、簡単なクエストを受けようか」


 なんか、理解したくないことが聞こえて来た気がしたけど、気のせいだよね?う、うん、き、気のせいだよね?



 ーーーーーーーーーー


 結局あたし達は手頃なゴブリンの討伐を受けることにした。

 今回はゴブリン5匹の討伐だ。初めて組むこともあり、難易度の低いクエストを受けることに決まったのだ。


「そういえば、ダクネスはクルセイダーだけど、どんなスキルを取得してるの?」


 一緒に組むにあたって、互いのスキルを知っていて損は無いのでそんなことをダクネスに聞いてみる。


「私は『物理耐性』と『魔法耐性』、各種『状態異常耐性』で占めてるな。後はデコイという、囮になるスキルぐらいだ」


 あたしはほうほうと顎に手を当てて軽く頷いていたが、一つ疑問が浮かんだ。


「さっき、攻撃が当たらないとか言ってたけど、『両手剣』スキルとかを覚えて攻撃が少しでも当たるようにとかはしないの?」


「そのつもりはないな。私と言っては何だが、体力と筋力はある。攻撃が簡単に当たる様になってしまっては、無傷でモンスターを倒せる様になってしまう。かといって、手加減してわざと攻撃を受けるのは違うのだ。こう......、必死に剣を振るうが当たらず、力及ばず圧倒されてしまうというのが気持ちいい」


「へー、そ、そうなんだー」


 そう言いながら頬を火照らしているダクネスを見て、思わず棒読みになってしまう。おそらく、あたしは今、顔がひきつっているのだろう。

 そんなあたしに構わず、


「クリスはどんなスキルを取得しているのだ?」


 ダクネスは何事も無かったかの様に聞いてくる。


「え、えっとー。あたしが取得しているスキルは、『敵感知』に『潜伏』、相手の持ち物を確率で奪う『スティール』、相手を縄などで拘束して自由を奪う『バインド』とか、かな?」


 右頬を掻きながらあたしは答えた。


「ば、バインド?そ、それについて詳しく教えてくれ!」


「えっ?」


「えっ?」


 なぜかはわからないが『バインド』に対してものすごい興味を示して来たダクネスに圧倒されてしまった。しかし、なぜ『バインド』に対してこんなにも興味を寄せているのか。なぜかはわからないが。

 うん、なぜかはわからないが...。


「『バインド』はさっきも説明した通り、縄などで相手を拘束して、自由を奪うスキルだよ。強度や効果時間は、使う魔力の量によって、左右されるけど...」


「そ、それはなんて良いスキルなんだ!今度私にも掛けてくれ!」


「え"っ...」


 なんか、もうこの子、色々な意味で手遅れな気がしてきた...。さっきから色んな兆候は出てたけど、この子、あれだ。ただのドMだ。

 しかも、結構手遅れなやつだ。

 どうしようかと考えていると、一つの妙案が浮かんだ。


「そうだダクネス!攻撃は当たらないけど、筋力には自信があるって、言ってたよね?」


「そ、そうだが...。それがどうかしたのか?」


「筋力は高いってことはさ、攻撃力は高いってことじゃない?それならさ、あたし、盗賊だし、攻撃力はそんなに高くないからさ、敵を倒すのに手数がかなり必要だけど、私が敵を『バインド』で拘束して、ダクネスの高い攻撃力でとどめを刺す!こんなのはどうかな?」


 我ながら名案だと思う作戦を期待を込めて、ダクネスに伝えてみると、


「そ、それだ!完璧な作戦じゃないか、クリス!」


「へっへーん。もっと褒めてよ」


 予想通りに良い反応が返ってきたので調子に乗ってしまい、


「ああ!とても完璧な作戦だ!いくら私でも拘束されて、不自由な相手に対しての攻撃は外さん。私の弱点を補い、さらにクリスの弱点をも補ってなお、互いの長所を活かす最効率の作戦をあの一瞬の内に思い付くとは...。流石としか、言いようがない。しかも、私とクリスは出会って間もない、そんな状態なのに、そこまでの作戦を立てれるとは...」


「わあああ、も、もういいよ!そんなに褒められるとちょっと恥ずかしいし...」


「ん?そうなのか?私としては、まだ褒めるところがあると思うのだが...」


「も、もういいって、ダクネス!」


「まあ、そんなに言うのならやめるが...」


 途中から恥ずかしくなって来て、やめさせた。褒められるのは、嬉しかったのだが、ここまでベタ褒めされるのは、初めてでむずがゆくなり、恥ずかしさのあまり、やめさせた。


「じゃ、じゃあ、ゴブリン討伐、気を取り直していってみようか!」


「ああ!」


 あたしの立てた作戦が功を奏し、


「あ、当たるぞ!私にも攻撃が当たるぞ!!」


 どこかの赤い彗星が言ってそうな言葉を発しながらバッサバッサと、あたしが拘束した、ゴブリンを切り捨てていく。


「やるじゃない、ダクネス!これなら依頼も楽勝だね!」


「ああ、そうだな!敵の攻撃を受けることが出来ないのは少々残念だが...」


 この子はなんだろうか、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。天界から見ていた限りは、貴族出身なのだが、どうしてこんな風に育ってしまったのだろうか...。


 この子の父親も苦労しているんだろうな...。


 戦闘中であるのにも関わらずそんなことを考えていたせいだろう、後ろから切り掛かろうとしていたゴブリンに気づくことが出来なかった。


「危ないクリス!」


 その言葉と共にダクネスがゴブリンの剣を受ける。


「んんっ...」


「だっ、ダクネス!」


 あたしのせいだ。あたしが戦闘中であるのにも関わらず考え事していたせいで、ダクネスが...。あたしせいで、あたしのことを信仰してくれている可愛い教徒を傷つけてしまった。そんなことを考え、自分の愚かさに落胆していると、


「んんっ、くう。良い攻撃だ!だがまだまだ足りん!もっとだ!もっとを私を満足させてみろ!!」


 ダクネスがそんなことを言い出した。そうだ、忘れていたダクネスは、


 <私は『物理耐性』と『魔法耐性』、各種『状態異常耐性』で占めてるな>


 防御力においては他の追随を許さないほど、防御力に特化していたのだ。こんな風に言えばかっこいいのだが、こんなにも防御力を上げてる理由はと言うと、


「ハァ、ハァ。まだだ!もっと重い一撃を食らわせ、私を屈服させてみろ!想像すると......くぅ、武者震いが!」


 ドMだからである。そんなどうしようもないダクネスにゴブリンもドン引きしており、顔が完全にひきつっていた。そして、


「ああ!に、逃げるなぁ!くぅ、ここまでされておいて、最後はお預けというこの感じもたまらんっ!」


「へっ、へぇー...」


 ゴブリンは逃げ出した。あたしがゴブリンだったとしても、そうするだろう。というかこの子には、何をしても自身の快楽にされるのだろうか。


「...やっぱり、友達にする相手間違えたのかな...」


 私は小声でそんなことを呟いた。




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