第4話 ティア、王宮でパーティーする


 王都についた俺たちは前世で見慣れたモブ顔の兵士たちに王宮を案内され、国王と謁見することになった。


 国王が謁見の間に来るとエドワードを片膝をついたが、俺とエレノアは立ったまま軽く目を瞑っているだけだ。


 聖女というのは国王に匹敵するほどの権力がある。この国の権力は扱える属性の数によって決定されるのだ。

 平民は無しか1つ。貴族は二つ。王家は三つか四つとなっている。

 それに対して、聖女の血筋は『光属性を含む四属性』とされている。


 ちなみに俺は前世で魔法を使うことができなかった。


 ここは魔法が使えないと苦労をする国だ。それがどれだけのツラさかは前世で散々知ってきた。

 だから今世では聖女だけが扱える四属性を持って、俺は国王をぶち殺すっ!


「面を上げよ」


 俺とエレノアは目を開ける。国王は今すぐにでも殺したいが、そんなことをしようとすればエドワードの妨害が目に見えるし、逆に俺が殺され兼ねない。

 ……いや、殺されるか。さすがは国王陛下といった所だ。


「……っ!」


 俺がその黒いローブの存在に気づいて少し経つとそのローブのヤツと目が合った。

 するとローブのヤツが何やら身振りを取り始めた。


 まさかあの国王、ここで俺を始末しようとしてるのか? だとしたらアホ過ぎるだろ。

 夜中に奇襲してくるかと思ったのだが……


「……であるからして、我々はー……協力してね……いかないとー……ね?」


 会話延ばし過ぎだろ。さすがに時間稼ぎだとバレるに決まってる。


 エレノアの方をチラ見すると愛想笑いをしていたが、どこかで早く終われと言ってるように感じた。


 一方、我らが英雄エドワード様は片膝で立っているのが辛くなってきたのか、足がプルプルと震え始めていた。

 無駄に格好つけて装飾品飾りまくった罰かもな。仕方ない。

 すると扉付近にいた兵士から身振りをする音が聞こえた。おそらく「国王陛下、パーティー中止です」と言ってるのだろう。


「……以上だ。明日の聖誕祭楽しみに待っておる」


 謁見という無駄な時間を過ごした後、俺たちは別々の部屋に案内された。1人部屋用だからというのが表向きらしいが、実際は俺を殺害しやすくするためだろう。

 それにもし何かあったとしても、エレノアという人質がいれば問題ないということだろうな。


「ティア様、こちらです。ご夕食はお部屋までお持ちしますので、何かあれば近くの者に申してください」


 待遇だけは無駄に良いんだよなー。殺そうとしなければ最高の宿屋だというのに。

 そろそろ俺も国王を殺す準備でもするか。


 俺が部屋にあるクローゼットを開け、クローゼットの奥を左にスライドすると、短刀と手袋、そして黒いローブが出てきた。


何時いつ如何なる状況でもターゲットを殺せるようにするのが殺し屋ってもんだ」


 実はこのセット。以前俺が王宮内の全ての部屋に黙って持ち込んだのだ。本来は監禁された時に脱出するために使うものだが、武器が持てればこの際なんでもいい。ローブと手袋はサイズが合わないが、使えなくはないだろう。


「さて、今夜決行だ」



 ◇◇◇



「失礼します。ティア様、そろそろお休みになられないとお身体に障りますよ」

「大丈夫です。日課ですので。もう少ししたら休みますので」

「わかりました。ではお休みなさいませ」


 俺は深夜勝手に部屋へと侵入してきた兵士を追い返した。たぶん俺が寝てたらそのまま殺害する予定だったのだろう。


「あ、あの!」

「はい、なんでしょうか?」


 兵士が扉を閉める直前にふと思ったことがあったので、呼び止めた。

 そして、手招きをしてこっちに誘い出す。


「なにかご用でしょう――――むぐっ!?」


 俺は兵士の口に左手を突っ込み、声が出せなくなったところで短刀を持ち、兵士の首を切る。


「どうして気づかなかったんだろう……」


 邪魔者になるのだから殺せばよかったじゃん。大した戦力も無いのだから問題ないよな?

 俺はローブを羽織り、なるべく地面に足をつけないよう、壁を走る。

 途中、通りがかった兵士は問答無用で全て殺す。


 そのお陰か今のところ何一つ騒ぎになっていない。だが、騒ぎになるのも時間の問題。さっさと国王殺して部屋に戻ろう。


「っ!?」


 廊下を全力疾走していると突然目の前に触れたら即死の超高熱結界が現れた。俺はそれを回避するために足を後ろに蹴る。


「あら、残念。もしかして気づいてたのかしら? 幼き聖女様?」


 正面からその美しい茶髪と無駄に大きな胸を揺らしながら歩いてくる1人の女性。彼女の名は――――――



「…………イズ」


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